スイーツ王子は甘くない⁉

「あのっ!」

 顔を上げ、その男子の背中に向かって呼びかけたけど、立ち止まることなく、そのまま職員室の出口に向かって歩いていく。


 ——ありがとうございます。勇気、もらいました。


 心の中でその男子にお礼を言うと、先生の方へと向き直る。


「先生、お願いします。わたし、どうしても試験を受けたいんです。もし受からなかったら、もう二度と転科したいって言いません。だから……お願いします!」

 先生に向かって、がばっと頭を下げると、先生は小さくため息を吐いた。


「そうだな。スイーツ科から特進科への転科が難しいのと同様に、スイーツ科への転科試験も相当難しいと聞く。この制度を利用した生徒がいないというのは、申請した者がいなかったわけではない。合格者が今までに出たことがないんだ。——わかった。それで気が済むのなら、受けるだけ受けてみなさい。ただし、特進科の勉強も、一切疎かにしないこと。それから、万が一合格したときには、今後どうするか、もう一度相談させてくれ。わかったな」

「はいっ。ありがとうございます!」

 渋い顔をした先生から転科申請用紙を受け取ると、元気よく頭を下げる。


 さっきの人のおかげだ。

 顔は見えなかったけど……スイーツ科の、かろうじて見えた上履きの色からすると、三年生だ。


 ありがとうございます、先輩。


 もう一度心の中でお礼を言うと、わたしは職員室をあとにした。