須磨へご出発の前日、源氏の君は上皇様のお墓参りへ行くことになさった。
その前に入道の宮様のお屋敷にお寄りになる。
宮様はついたて越しではあるけれど、直接源氏の君とお話しになったわ。
源氏の君が都を離れてしまわれたら、いよいよ東宮様の後見役がいなくなってしまうの。
おふたりともそれを心配そうになさっている。
宮様はあいかわらずお優しくてご立派な雰囲気でいらっしゃる。
源氏の君はつい恋の恨み言を申し上げたくなってしまわれるけれど、ぐっと我慢なさった。
<言ってしまったら宮様に嫌われたままお別れすることになるだろう。心穏やかに出発することもできなくなる>
とお思いになって、宮様に同情していただけそうなお話だけなさる。
「右大臣様は私に罪を着せようとなさっています。それはすべて無実の罪でございますが、それとは別に、私はひとつだけ恐ろしい罪を犯しました。宮様はご存じでございますね。私自身にはどのような罰が下ろうとも覚悟しております。それで東宮様をお守りできるのなら本望でございます」
宮様は「恐ろしい罪」が何であるか、当然お分かりになる。
東宮様の本当の父親が、亡き上皇様ではなく源氏の君だということは、宮様と源氏の君が絶対に隠しとおさなければならない秘密よ。
それをお思いになると、宮様はお言葉が出てこない。
源氏の君はさまざまな感情が入り乱れておられる。
ひとしきりお泣きになったあと、
「これから上皇様のお墓に参って、都を離れるご挨拶をいたします。上皇様に何かお伝えいたしましょうか」
と宮様にお尋ねになるけれど、宮様はすぐにはお返事をなさらない。
お心を落ち着かせてから、
「上皇様は亡くなり、あなたは遠くへ行かれ、出家したというのに泣いてばかりでございます」
とおっしゃる。
源氏の君に言いたいことも、上皇様にお伝えになりたいこともいろいろおありでしょうけれど、この状況であれもこれも冷静におっしゃれるはずはないわね。
源氏の君は、
「上皇様がお亡くなりになって、これ以上の悲しみはないだろうと思っておりましたのに、次から次へと悲しいことが起きる世の中でございます」
とお返事なさった。
その前に入道の宮様のお屋敷にお寄りになる。
宮様はついたて越しではあるけれど、直接源氏の君とお話しになったわ。
源氏の君が都を離れてしまわれたら、いよいよ東宮様の後見役がいなくなってしまうの。
おふたりともそれを心配そうになさっている。
宮様はあいかわらずお優しくてご立派な雰囲気でいらっしゃる。
源氏の君はつい恋の恨み言を申し上げたくなってしまわれるけれど、ぐっと我慢なさった。
<言ってしまったら宮様に嫌われたままお別れすることになるだろう。心穏やかに出発することもできなくなる>
とお思いになって、宮様に同情していただけそうなお話だけなさる。
「右大臣様は私に罪を着せようとなさっています。それはすべて無実の罪でございますが、それとは別に、私はひとつだけ恐ろしい罪を犯しました。宮様はご存じでございますね。私自身にはどのような罰が下ろうとも覚悟しております。それで東宮様をお守りできるのなら本望でございます」
宮様は「恐ろしい罪」が何であるか、当然お分かりになる。
東宮様の本当の父親が、亡き上皇様ではなく源氏の君だということは、宮様と源氏の君が絶対に隠しとおさなければならない秘密よ。
それをお思いになると、宮様はお言葉が出てこない。
源氏の君はさまざまな感情が入り乱れておられる。
ひとしきりお泣きになったあと、
「これから上皇様のお墓に参って、都を離れるご挨拶をいたします。上皇様に何かお伝えいたしましょうか」
と宮様にお尋ねになるけれど、宮様はすぐにはお返事をなさらない。
お心を落ち着かせてから、
「上皇様は亡くなり、あなたは遠くへ行かれ、出家したというのに泣いてばかりでございます」
とおっしゃる。
源氏の君に言いたいことも、上皇様にお伝えになりたいこともいろいろおありでしょうけれど、この状況であれもこれも冷静におっしゃれるはずはないわね。
源氏の君は、
「上皇様がお亡くなりになって、これ以上の悲しみはないだろうと思っておりましたのに、次から次へと悲しいことが起きる世の中でございます」
とお返事なさった。



