野いちご源氏物語 一二 須磨(すま)

 朧月夜(おぼろづきよ)尚侍(ないしのかみ)とのご関係は世間にも知られてしまった。(みかど)は仕方なく尚侍に実家での謹慎(きんしん)をお命じになった。
 右大臣家では源氏の君を厳しく警戒(けいかい)なさっている。直接お会いになるどころか、手紙のやりとりも難しい。それでも源氏の君は無理やり手紙をお届けになった。
「私が須磨(すま)へ行くことはすでにお聞きでしょうか。お見舞いのお言葉をいただけないことは仕方がないと(あきら)めておりますが、都を離れる悲しさだけはお伝えしておきたいのです。この悲しい運命はあなたに恋をしてしまったところから始まりました。精神的な恋でも(つみ)は罪ですから、(あま)んじて須磨まで流されていこうと思います」
 他人に読まれる危険を考えて、あくまで男女関係はなかったようにお書きになった。

 尚侍は泣いてしまわれる。
「お別れが悲しすぎて、あなたが都にお戻りになる前に死んでしまいそうです」
 乱れた筆跡(ひっせき)からお気持ちが痛いほど伝わる。源氏の君ももう一度会いたいとお思いだけれど、この状況でそれを言っても尚侍を苦しめるだけだった。もう手紙をお送りにならない。