花散里の君も心細く思って、たびたび源氏の君に手紙をお送りになる。
<それも当然だろう。あの人にも都を離れる前に一度会っておかなければ>
夜遅くなってからお訪ねになった。まず姫君の姉女御にご挨拶をなさる。
「このような寂しい家にまでお越しいただいて」
女御はたいそうお喜びになった。ご姉妹は長年源氏の君の経済的な支援を受けていらっしゃる。今後はどうなってしまうのか心配になるような、ひっそりとした屋敷だった。
ぼんやりとした月光が差してきた。庭には広い池があり、木立が生い茂っている。須磨で暮らす家はこんなふうだろうかと源氏の君は想像なさった。
花散里の君は、
<私には会わないまま都を離れてしまうおつもりなのだろう>
と思いこんでいらっしゃる。しょんぼりなさっているところに、すばらしい香りが漂ってきた。この香りは間違えようがない。
源氏の君はそっと姫君の部屋の縁側にお入りになる。姫君もおそばへ寄って、ふたりで美しい月をご覧になった。
すぐに明け方近くになってしまった。
「夜が短いな。こうしてお会いするのも最後かもしれません。もっと頻繁にお訪ねしていればよかったと悔やまれます。足元の定まらない人生でしたから、あなたとの仲をじっくりと深めることもできませんでした」
明け方の鶏がうるさく鳴く。人目についてはいけないと源氏の君はお気が急いた。
月が山へ沈もうとしている。源氏の君も同じように消えてしまわれるのだと、姫君は悲しく思われる。
月の光が姫君の着物を照らす。
「あの月を、この袖に閉じこめられませんかしら」
あまりにつらそうなご様子だった。
「月は沈んでもまた戻ってきますよ。しばらく姿を消すだけです。むやみにお泣きになってはいけません。つらくなってしまうだけですからね」
姫君を慰めて、夜明け間際にお帰りになった。
<それも当然だろう。あの人にも都を離れる前に一度会っておかなければ>
夜遅くなってからお訪ねになった。まず姫君の姉女御にご挨拶をなさる。
「このような寂しい家にまでお越しいただいて」
女御はたいそうお喜びになった。ご姉妹は長年源氏の君の経済的な支援を受けていらっしゃる。今後はどうなってしまうのか心配になるような、ひっそりとした屋敷だった。
ぼんやりとした月光が差してきた。庭には広い池があり、木立が生い茂っている。須磨で暮らす家はこんなふうだろうかと源氏の君は想像なさった。
花散里の君は、
<私には会わないまま都を離れてしまうおつもりなのだろう>
と思いこんでいらっしゃる。しょんぼりなさっているところに、すばらしい香りが漂ってきた。この香りは間違えようがない。
源氏の君はそっと姫君の部屋の縁側にお入りになる。姫君もおそばへ寄って、ふたりで美しい月をご覧になった。
すぐに明け方近くになってしまった。
「夜が短いな。こうしてお会いするのも最後かもしれません。もっと頻繁にお訪ねしていればよかったと悔やまれます。足元の定まらない人生でしたから、あなたとの仲をじっくりと深めることもできませんでした」
明け方の鶏がうるさく鳴く。人目についてはいけないと源氏の君はお気が急いた。
月が山へ沈もうとしている。源氏の君も同じように消えてしまわれるのだと、姫君は悲しく思われる。
月の光が姫君の着物を照らす。
「あの月を、この袖に閉じこめられませんかしら」
あまりにつらそうなご様子だった。
「月は沈んでもまた戻ってきますよ。しばらく姿を消すだけです。むやみにお泣きになってはいけません。つらくなってしまうだけですからね」
姫君を慰めて、夜明け間際にお帰りになった。



