野いちご源氏物語 一二 須磨(すま)

 海は(おだ)やかで波もない。源氏(げんじ)(きみ)は、これまでのこととこれからのことをお考えになる。
「神様、私は右大臣(うだいじん)が申しているような(つみ)(おか)しておりません。ご存じでございましょう」
 そうおっしゃった途端(とたん)、急に風が吹きはじめて、空が暗くなり、(あらし)のような雨が降りだした。まったくそんな気配はなかったのに、突然の暴風雨(ぼうふうう)で海も大荒れになる。海面(かいめん)が恐ろしく光ったかと思えば、(かみなり)がとんでもなく大きな音で鳴りひびいた。

 儀式を中断して源氏の君は屋敷にたどりつかれた。まだ雷はやまず、土砂(どしゃ)()りが続いている。
「こんなひどい暴風雨には()ったことがない。この世の終わりではないか」
「いや、お祈りが神様に届いて、よし分かったとお返事をくださったのだろう」
「危ないところだった。みんなが無事でよかった」
 家来たちが(さわ)ぐなか、源氏の君はお心を静めてお(きょう)を読んでいらっしゃる。日が暮れるころには雷は少し落ち着いたけれど、強い風は夜も吹いていた。