野いちご源氏物語 一二 須磨(すま)

日がだんだんと高くなってきたので、中将(ちゅうじょう)様はお急ぎになる。
「いつかまた都でお会いする日もまいりましょう」
とお(はげ)ましになると、源氏(げんじ)(きみ)は、
無実(むじつ)(つみ)であっても、一度罪を着せられてしまった人が元の地位に戻ることは、いつの時代も難しいものです。私は都に戻ることは諦めております。ただあなただけは、私の潔白(けっぱく)を分かっていてください」
と弱気そうにおっしゃる。

中将様はお(とも)()かされながら、必死にご説得なさる。
「あなたは私の大切な友人ですよ。恐れ多い皇子(みこ)様でいらっしゃるけれど、かけがえのない友人なのです。そんな悲しいことをおっしゃったら、私は都でひとり泣くことになってしまいます。都に戻ることをお諦めになってはいけません」

おふたりともまったく満足はしていらっしゃらない。
中将様は何度もふり返りながら帰っていかれたわ。
お見送りなさる源氏の君はとてもおつらそうで、その日はそのままぼんやりとしておられた。