野いちご源氏物語 一二 須磨(すま)

 都では月日が()つほど、帝をはじめとしてどなたも源氏(げんじ)(きみ)を恋しく思われる。まして幼い東宮(とうぐう)は、いつも思い出しては(かく)れて泣いていらっしゃった。(おう)命婦(みょうぶ)は東宮の本当の父親が源氏の君だと知っているから、ご様子を拝見すると胸が()まる。
 入道(にゅうどう)(みや)はこの秘密を守り抜かねばと緊張(きんちょう)なさっていた。東宮の唯一(ゆいいつ)後見(こうけん)役である源氏の君が都を離れてしまわれたのだから、東宮のご将来がいっそう心配でお(なげ)きになる。

 須磨(すま)の源氏の君のところへは、しばらく仲のよかった皇族や貴族たちがお見舞いの手紙を送っていらっしゃった。しかし、そこでやりとりされた漢詩(かんし)出来(でき)()えがあまりにすばらしくて、世間で評判(ひょうばん)になってしまう。そうなると皇太后(こうたいごう)(だま)っていらっしゃらない。
罪人(ざいにん)だというのに何を楽しそうにしているのだ。須磨で謹慎(きんしん)すると言いながら、風流な家に住んで、都の()()きと漢詩のやりとりをしているとか。どうせ帝の政治にけちをつけているのだろう。源氏の君も源氏の君だが、相手をする方も悪い」
 ひどくお怒りなので、ほとんどの方は文通をやめてしまわれた。