庭の花壇に秋の花が咲き乱れた夕暮れ時、源氏の君は海が見える廊下にお出になった。たたずむお姿は不吉な気がするほど清らかで、この世の人ではないような雰囲気がある。
藍色の着物に帯をゆるく結んで、くつろいだ様子でお経を読んでいらっしゃる。ありがたいお声が響いていた。
沖から漁師たちの歌が聞こえる。どこかに向かっていく小舟が、小さな鳥が心細そうに波間を漂っているように見えた。空には冬を越すために渡ってきた雁が、列をつくって飛んでいる。海の向こうの都を思い出してこぼれる涙を、源氏の君は黒い数珠をつけたお手でぬぐわれた。
「雁が悲しい声で鳴きながら飛んでいる。都の恋しい人たちからの伝言だろうか」
源氏の君がおっしゃると、家来たちがつぎつぎと申し上げた。
「都のことを思い出させるような鳴き声でございますね」
「遠いところへ旅するつらさが、私にもやっと理解できました」
「仲間がいれば旅はつらいばかりではありませんよ」
最後にけなげなことを言ったのは、源氏の君の家来ということで右大臣に目をつけられ、内裏での官職を奪われた人だった。父親は常陸の国の地方長官をしている。そちらについていくこともできたのに、あえて須磨へお供することを望んだ。心のうちで思い悩むことはあるだろうけれど、胸を張って源氏の君にお仕えしている。
藍色の着物に帯をゆるく結んで、くつろいだ様子でお経を読んでいらっしゃる。ありがたいお声が響いていた。
沖から漁師たちの歌が聞こえる。どこかに向かっていく小舟が、小さな鳥が心細そうに波間を漂っているように見えた。空には冬を越すために渡ってきた雁が、列をつくって飛んでいる。海の向こうの都を思い出してこぼれる涙を、源氏の君は黒い数珠をつけたお手でぬぐわれた。
「雁が悲しい声で鳴きながら飛んでいる。都の恋しい人たちからの伝言だろうか」
源氏の君がおっしゃると、家来たちがつぎつぎと申し上げた。
「都のことを思い出させるような鳴き声でございますね」
「遠いところへ旅するつらさが、私にもやっと理解できました」
「仲間がいれば旅はつらいばかりではありませんよ」
最後にけなげなことを言ったのは、源氏の君の家来ということで右大臣に目をつけられ、内裏での官職を奪われた人だった。父親は常陸の国の地方長官をしている。そちらについていくこともできたのに、あえて須磨へお供することを望んだ。心のうちで思い悩むことはあるだろうけれど、胸を張って源氏の君にお仕えしている。



