野いちご源氏物語 一二 須磨(すま)

<あの者たちには気の毒なことをしてしまった。私のせいで住みなれた家や親兄弟と離れて須磨(すま)まで来ているのだ。私が(しず)みこんでいたらもっと心細くなってしまうだろう>
 それからは昼間は冗談(じょうだん)を言ったり、字や絵で作品を作ったりして楽しそうに過ごされる。
 これまでは話で聞くだけだった海や山の様子を、ご自分の目でご覧になれたことは大きい。想像ではなく目の前にあるものをお描きになるのだから、すばらしい風景画がいくつも生まれた。
「都の有名な絵師(えし)に依頼して、この絵に色をつけさせたいものです。さらにすばらしい、完璧(かんぺき)な作品になりましょう」
 家来たちはもどかしそうにしている。源氏の君のくつろいだ美しいご様子を見ると、悩み事など忘れてしまった。二条(にじょう)(いん)に比べて屋敷は小さく、家来は四、五人だけ。近くで親しくお仕えできることをうれしく思っている。