朧月夜の尚侍は、世間から笑われていることをつらく思いながら、実家で謹慎していらっしゃる。この姫君は右大臣の愛娘だから、大臣は帝や皇太后に必死にお願いなさった。
帝はもともと尚侍と源氏の君の関係をご存じで、その上で尚侍を愛していらっしゃった。
「妃が他の男と関係を持ったというなら内裏に置いておけないが、尚侍は妃ではなく女官なのだから、そこまでの処分は必要ない」
とお許しになる。
七月、源氏の君が須磨へ行かれて四か月ほどしたころ、尚侍は内裏に復帰なさった。これだけの不祥事を起こして帝をお苦しめしたというのに、まだ源氏の君をお忘れになれない。
帝の尚侍へのご愛情は冷めることなく、誰に何を言われてもずっとおそばに置いておかれる。恨み言をおっしゃったり永遠の愛を約束なさったりする帝のお姿は、とても清らかでお美しい。それでも尚侍は源氏の君のことばかりを思っていらっしゃる。なんと恐れ多いことかしら。
ある日の音楽会のとき、帝は尚侍におっしゃった。
「源氏の君がいないとつまりませんね。私以上にそう思って、残念がっている人も多いでしょう。あの人は光のような人だったから。源氏の君を大切にせよという父院のご遺言を破ってしまった。罰を受けるだろうな」
涙ぐまれる帝を見て、尚侍も涙を我慢できない。
「生きていたところでたいしておもしろいこともないから、そろそろ死んでしまってもよいと思うのです。しかし死んでも私は源氏の君に勝てないでしょう。私が二度と会えないところに行ったとしても、あなたが流す涙は、源氏の君がたかだか須磨へ行ったときの何分の一だろう。帝の位をしても弟に勝てない。あなたの愛を得られない。悔しいことです」
お胸のうちにあるわだかまりを何もかも話してしまわれる。
深く思いつめていらっしゃるご様子に、尚侍の涙がこぼれた。
「ほら、それですよ。その涙は源氏の君のためか、私のためか」
苦笑いしておっしゃる。お返事できない尚侍に、帝は話をお変えになった。
「私には残念なことにまだ皇子がいませんから、父院のご遺言に従って東宮を養子にしようと考えることもあるけれど、きっと反対する人がいて実現できないでしょう。本当に私は帝なのだろうか。何も思いどおりにできない」
右大臣と皇太后の前では、お若い帝はご意見を通せずにいらっしゃる。お気の毒なことだった。
帝はもともと尚侍と源氏の君の関係をご存じで、その上で尚侍を愛していらっしゃった。
「妃が他の男と関係を持ったというなら内裏に置いておけないが、尚侍は妃ではなく女官なのだから、そこまでの処分は必要ない」
とお許しになる。
七月、源氏の君が須磨へ行かれて四か月ほどしたころ、尚侍は内裏に復帰なさった。これだけの不祥事を起こして帝をお苦しめしたというのに、まだ源氏の君をお忘れになれない。
帝の尚侍へのご愛情は冷めることなく、誰に何を言われてもずっとおそばに置いておかれる。恨み言をおっしゃったり永遠の愛を約束なさったりする帝のお姿は、とても清らかでお美しい。それでも尚侍は源氏の君のことばかりを思っていらっしゃる。なんと恐れ多いことかしら。
ある日の音楽会のとき、帝は尚侍におっしゃった。
「源氏の君がいないとつまりませんね。私以上にそう思って、残念がっている人も多いでしょう。あの人は光のような人だったから。源氏の君を大切にせよという父院のご遺言を破ってしまった。罰を受けるだろうな」
涙ぐまれる帝を見て、尚侍も涙を我慢できない。
「生きていたところでたいしておもしろいこともないから、そろそろ死んでしまってもよいと思うのです。しかし死んでも私は源氏の君に勝てないでしょう。私が二度と会えないところに行ったとしても、あなたが流す涙は、源氏の君がたかだか須磨へ行ったときの何分の一だろう。帝の位をしても弟に勝てない。あなたの愛を得られない。悔しいことです」
お胸のうちにあるわだかまりを何もかも話してしまわれる。
深く思いつめていらっしゃるご様子に、尚侍の涙がこぼれた。
「ほら、それですよ。その涙は源氏の君のためか、私のためか」
苦笑いしておっしゃる。お返事できない尚侍に、帝は話をお変えになった。
「私には残念なことにまだ皇子がいませんから、父院のご遺言に従って東宮を養子にしようと考えることもあるけれど、きっと反対する人がいて実現できないでしょう。本当に私は帝なのだろうか。何も思いどおりにできない」
右大臣と皇太后の前では、お若い帝はご意見を通せずにいらっしゃる。お気の毒なことだった。



