野いちご源氏物語 一二 須磨(すま)

入道(にゅうどう)(みや)様も、源氏(げんじ)(きみ)がこんなことになってしまわれて(なげ)いておられた。
源氏の君は東宮(とうぐう)様の唯一(ゆいいつ)後見(こうけん)役でいらっしゃったし、何より東宮様の父親でいらっしゃるのだものね。

<東宮様の父親を世間から疑われることだけは避けたいと、私はこれまで源氏の君に冷たい態度をとりつづけたけれど、あの人はなりふりかまわず私に恋心を(うった)えてきた。東宮様のために秘密を守りぬこうという気がないのかと恐ろしく思ったが、これだけ世間が源氏の君の(あら)(さが)しをしていても、誰も秘密にたどりついていない。
源氏の君の方でも、世間には恋心など気づかせないように、慎重に隠してくださっていたということだろう。思いやりも分別(ふんべつ)もある、お優しい人なのだ>
と恋しく思い出される。

お返事にもそのお気持ちが表れていたわ。
(あま)になりましたのに、毎日泣いて過ごしております。都にお帰りになる日をお待ちしておりますよ」