都のあちこちに源氏の君の手紙が届けられた。どなたもお心を乱される。
二条の院の紫の上は、手紙をお読みになったきり起き上がることもできなくなってしまった。どうかなりそうなほど源氏の君を思い焦がれていらっしゃる。女房たちは慰めかねてこの先を心配する。
何をご覧になっても源氏の君が恋しい。ご愛用のお道具、よく弾いていらっしゃった琴、脱いでいかれた着物の香り。
まるで源氏の君がお亡くなりになったかのように悲しまれるので、乳母は不吉だと思って僧侶を呼んだ。源氏の君が早く都に戻られることと、紫の上のお心を落ち着かせることを祈らせる。
お返事と一緒にお届けしようと、紫の上は着物を仕立てさせなさる。これまでの華やかなものではなく、模様のない質素な着物なのがおつらい。
「この鏡に私の面影を閉じこめておけたらよいのに」
源氏の君はそうおっしゃったけれど、鏡に閉じこめておくまでもなく、源氏の君の面影は紫の上のお心から離れない。しかし、話すことも触れることもできない面影では悲しいだけだった。
源氏の君が紫の上の離れに入っていらっしゃるときの戸、寄りかかってお座りになっていた柱、そういうものをご覧になってもお胸がいっぱいになる。愛する人との別れは誰だって悲しいけれど、紫の上は十歳のころから源氏の君に育てられていらっしゃったのだもの。
これがもし死別だったなら、どうしようもないこととして少しずつ乗り越えていかれる。しかし源氏の君は生きていらっしゃって、その場所はそれほど遠くはないようだけれど、次はいつ会えるか、そもそも次があるかどうかさえお分かりにならない。紫の上はいつまでもおつらい。
二条の院の紫の上は、手紙をお読みになったきり起き上がることもできなくなってしまった。どうかなりそうなほど源氏の君を思い焦がれていらっしゃる。女房たちは慰めかねてこの先を心配する。
何をご覧になっても源氏の君が恋しい。ご愛用のお道具、よく弾いていらっしゃった琴、脱いでいかれた着物の香り。
まるで源氏の君がお亡くなりになったかのように悲しまれるので、乳母は不吉だと思って僧侶を呼んだ。源氏の君が早く都に戻られることと、紫の上のお心を落ち着かせることを祈らせる。
お返事と一緒にお届けしようと、紫の上は着物を仕立てさせなさる。これまでの華やかなものではなく、模様のない質素な着物なのがおつらい。
「この鏡に私の面影を閉じこめておけたらよいのに」
源氏の君はそうおっしゃったけれど、鏡に閉じこめておくまでもなく、源氏の君の面影は紫の上のお心から離れない。しかし、話すことも触れることもできない面影では悲しいだけだった。
源氏の君が紫の上の離れに入っていらっしゃるときの戸、寄りかかってお座りになっていた柱、そういうものをご覧になってもお胸がいっぱいになる。愛する人との別れは誰だって悲しいけれど、紫の上は十歳のころから源氏の君に育てられていらっしゃったのだもの。
これがもし死別だったなら、どうしようもないこととして少しずつ乗り越えていかれる。しかし源氏の君は生きていらっしゃって、その場所はそれほど遠くはないようだけれど、次はいつ会えるか、そもそも次があるかどうかさえお分かりにならない。紫の上はいつまでもおつらい。



