野いちご源氏物語 一二 須磨(すま)

 須磨(すま)での暮らしにも慣れていらっしゃったころ、梅雨(つゆ)に入った。都の(むらさき)(うえ)東宮(とうぐう)(しゅうと)大臣(だいじん)(てい)でお育ちの若君(わかぎみ)などを恋しく思い出して手紙をお書きになる。紫の上と入道(にゅうどう)(みや)への手紙は、つい涙がこぼれてなかなか筆が進まなかった。
 宮へは、
「いかがお過ごしでしょうか。私は過去も未来も真っ暗に思われて、須磨(すま)で涙に暮れております」
 とお書きになった。
 朧月夜(おぼろづきよ)尚侍(ないしのかみ)への手紙は、右大臣(うだいじん)皇太后(こうたいごう)が目を光らせていらっしゃるので、尚侍の女房(にょうぼう)()てになさった。
「須磨は(さび)しいところです。昔のことを思い出してはあなたに会いたいと思ってしまうのだから、私は本当に()りない人間ですね。あなたはいかがですか。私に会いたいと思ってくださっていますか」
 大臣邸の若君の乳母(めのと)宛てにも、若君の育て方の注意などを書いてお届けになった。