野いちご源氏物語 一二 須磨(すま)

 源氏(げんじ)(きみ)謹慎(きんしん)(さき)須磨(すま)を選ばれた決め手は三つある。
 一つ目は、静かだけれど都から遠すぎないこと。二つ目は、摂津(せっつ)(くに)の地方長官が源氏の君に好意的であること。そして三つ目は、須磨には源氏の君の領地(りょうち)があること。
 須磨へ行くことを決心した源氏の君は、まず住む場所をお決めになった。海から少し離れた山の中で、人気(ひとけ)がなくて怖いくらいのところに、質素だけれど風流(ふうりゅう)な家がある。

 到着なさった源氏の君はこじんまりとした屋敷をご覧になる。
<こんな事情で来たのでなければ、こういうところに泊まるのもおもしろい経験だろうに>
 領地の管理人をお呼びになって庭づくりをお命じになる。良清(よしきよ)という家来(けらい)が、源氏の君のご希望を管理人に伝えて指示を出した。
 あっという間に美しい庭ができあがった。小川を深くしたり木を植えたりして庭が整うと、やっとお気持ちも落ち着く。しかしそれも現実(げんじつ)()がなく、夢のようだった。

 摂津の国の地方長官は、もともと源氏の君に親しくお仕えしていた人で、今も源氏の君に敬意を持っている。右大臣(うだいじん)に気づかれないように、こっそりと源氏の君のお世話をした。
 仮住まいとは思えないほど出入りする人は多いけれど、やはり源氏の君とは身分が違う。()ちとけて話しのできる人はいない。
<外国へ来たような気分だ。ここでどうやって年月を過ごそうか>
 とお悩みになる。