野いちご源氏物語 一二 須磨(すま)

 須磨(すま)までの道中(どうちゅう)源氏(げんじ)(きみ)(むらさき)(うえ)面影(おもかげ)が頭から離れない。苦しみながら船にお乗りになった。
 船旅(ふなたび)は初めてだから、心細くはあるけれど、周りを興味深そうにご覧になる。
 波が寄せては戻っていく。
「私は遠くへ流れていくだけなのに、波はまた元の場所へ戻っていくのだからうらやましい」
 お(とも)の人たちはただ悲しんでいた。
 振りかえって都の方角をご覧になると、山に(かすみ)がかかってぼんやりとしている。
<ずいぶん遠いところまできたものだ。しかし空は都とつながっている>
 何もかもつらいけれど、空を見上げてご自分を(はげ)まされる。
 日が長い季節で、しかも追い風も吹いたので、船は夕方に須磨の浜辺へ着いた。