源氏の君は悩んでいらっしゃった。
もはや世間はおもしろくないことばかりなの。
右大臣様と皇太后様によって政治の場から除け者にされて、数々の嫌がらせをお受けになった。
ずっと気づいていないふりでやり過ごしておられたけれど、それももう限界。
<これ以上ひどい扱いを受ける前に、摂津国の須磨あたりに引っ越して、反省の姿勢を見せる方がよいかもしれない。いくら右大臣でも、そこまでした者に追い打ちをかけることはできないだろう>
とお考えになる。
当時の須磨は、人がほとんど住んでいない海辺よ。
<反省して都から離れるという建前なのだから、にぎやかな場所ではない方がふさわしい。都から遠すぎない須磨なら何かと安心だろう>
と、計画を立てていかれる。
後悔も不安もあって、何もかもがお悲しい。
須磨へ行ったら、もう都には戻っていらっしゃれないかもしれない。
捨てがたいものはあまりにも多いわ。
一番のご心配は、やはり紫の上ね。
紫の上は十八歳。
源氏の君の内裏での厳しいお立場もなんとなく分かっておられるし、都を離れる理由も聞かされていらっしゃる。
でも、これまでおふたりはいつも一緒のご夫婦だったのだもの。
源氏の君はほんの一日二日お留守になさっただけでも紫の上がお気にかかるし、女君の方も心細そうになさるのよ。
源氏の君は、
<何年経ったら都に戻れると決まっているわけでもない。二度と会えないかもしれないのだ。いっそ連れていこうか。しかし、須磨は寂しい海辺だと聞く。こんなにかわいらしい人を連れていくのは気の毒だ。都に置いておくよりも、かえって心配になってしまうだろう>
とお悩みになる。
女君は、
「どんなところへでも、あなたとご一緒ならば」
とおっしゃるけれど、源氏の君はお認めにならない。
女君は切なく恨んでいらっしゃる。
もはや世間はおもしろくないことばかりなの。
右大臣様と皇太后様によって政治の場から除け者にされて、数々の嫌がらせをお受けになった。
ずっと気づいていないふりでやり過ごしておられたけれど、それももう限界。
<これ以上ひどい扱いを受ける前に、摂津国の須磨あたりに引っ越して、反省の姿勢を見せる方がよいかもしれない。いくら右大臣でも、そこまでした者に追い打ちをかけることはできないだろう>
とお考えになる。
当時の須磨は、人がほとんど住んでいない海辺よ。
<反省して都から離れるという建前なのだから、にぎやかな場所ではない方がふさわしい。都から遠すぎない須磨なら何かと安心だろう>
と、計画を立てていかれる。
後悔も不安もあって、何もかもがお悲しい。
須磨へ行ったら、もう都には戻っていらっしゃれないかもしれない。
捨てがたいものはあまりにも多いわ。
一番のご心配は、やはり紫の上ね。
紫の上は十八歳。
源氏の君の内裏での厳しいお立場もなんとなく分かっておられるし、都を離れる理由も聞かされていらっしゃる。
でも、これまでおふたりはいつも一緒のご夫婦だったのだもの。
源氏の君はほんの一日二日お留守になさっただけでも紫の上がお気にかかるし、女君の方も心細そうになさるのよ。
源氏の君は、
<何年経ったら都に戻れると決まっているわけでもない。二度と会えないかもしれないのだ。いっそ連れていこうか。しかし、須磨は寂しい海辺だと聞く。こんなにかわいらしい人を連れていくのは気の毒だ。都に置いておくよりも、かえって心配になってしまうだろう>
とお悩みになる。
女君は、
「どんなところへでも、あなたとご一緒ならば」
とおっしゃるけれど、源氏の君はお認めにならない。
女君は切なく恨んでいらっしゃる。



