まだお話ししていなかったけれど、おそらく源氏(げんじ)(きみ)が十代のころから、ずっと続いている恋人がいらっしゃるの。
あれは亡き上皇(じょうこう)様が、まだ(みかど)であられたころ。
内裏(だいり)に「麗景殿(れいけいでん)女御(にょうご)様」と呼ばれるお(きさき)様がいらっしゃった。
その女御様の妹姫(いもうとひめ)を源氏の君は恋人になさったの。

上皇様がお亡くなりになったあと、麗景殿の女御様はご実家にお戻りになって、妹姫とご一緒に寂しく暮らしておられる。
源氏の君は妹姫を正式な妻としては扱っていないけれど、ご姉妹を経済的にお支えしていらっしゃるわ。
心細そうな女性を捨てておけないご性格なのよね。

政治から()(もの)にされてしまって、何かとつまらないことの多い源氏の君は、ふとこの姫君のことを思い出された。
五月雨(さみだれ)がつづいていた空がめずらしく晴れた夜、源氏の君はひさしぶりにお訪ねすることになさったの。
目立たない格好をなさって、こっそりと向かわれる。