野いちご源氏物語 一一 花散里(はなちるさと)

 まだお話ししていなかったけれど、源氏(げんじ)の君(きみ)はおそらく十代のころから、ある女性と細くご関係が続いている。亡き桐壺(きりつぼ)院(いん)の時代、麗景殿(れいけいでん)の女御(にょうご)と呼ばれるお妃(きさき)がいらっしゃった。その女御の妹姫(いもうとひめ)と源氏の君は内裏(だいり)で出会われて、恋人関係になっていた。

 桐壺院がお亡くなりになった後、女御は実家に戻って妹姫と寂(さび)しくお暮らしだった。源氏の君は姫君(ひめぎみ)を正式な妻扱いはしないまま、ご姉妹を経済的に支えていらっしゃる。一度関係を持った女性は見捨てられないご性格だもの。
 政界(せいかい)から除(の)け者(もの)にされ、何かとつまらないことの多い源氏の君は、ふとこの姫君のことを思い出された。五月雨(さみだれ)が続いていた空がめずらしく晴れた夜、ひさしぶりにお訪ねになる。