右大臣様はもともと我慢ということができないご性格なの。
お年をとられてからは、さらに気が短くなっておられる。
すぐに皇太后様にご報告なさったわ。
「たった今、源氏の君が尚侍の部屋にいるところを見つけてしまった。あのふたりはまだ関係が続いていたらしい。私の屋敷に忍びこんで、まるで婿のようにくつろいでいたよ。正気とは思えぬ。
五年前にふたりの関係が明らかになって、尚侍は今の帝とのご結婚が破談になった。私は源氏の君に対してもっと厳しく出てもよかったのだが、罪を許して婿にしてやろうと言ったのだ。それをあっさり断ったくせに、その後も関係が切れていなかったとは。
あの不祥事さえなければ、姫を女官ではなく妃として内裏に上がらせられた。それでも帝は姫を愛して、尚侍にまで出世させてくださったのだ。その姫を、源氏の君はまだ自分の女として扱うつもりか。
どうやら源氏の君には帝に逆らう気持ちがあるらしい。恐れ多いことに、賀茂神社の斎院にも恋文を送っているという噂がある。神聖な斎院や、帝に愛されている姫に手を出すのは、源氏の君が帝を軽んじている証拠だろう。まさかこれほど非常識なことをするとは思っていなかった」
皇太后様は父君である右大臣様よりもさらに激しいご性格なので、お話を聞いて激怒なさった。
「なんということ。帝はお気の毒な方ですよ。昔から皆、帝より弟の源氏の君の方を持ち上げるのですもの。引退した左大臣だってそうだったでしょう。帝がまだ東宮様でいらっしゃったころ、一人娘を東宮様ではなく、まだ幼い源氏の君の正妻にした。
その源氏の君が、父君や私が妃にしようと大切にしていた姫に手をつけてしまわれたのです。あのとき父君は、源氏の君に厳しい態度をおとりになるべきでした。婿にしようだなんて生ぬるいことをおっしゃったところから、あの姫の人生は転落しはじめたのですよ。あっさり断ってきた源氏の君を見返してやろうと、私は姫の女官としての人生を応援していましたが、姫本人には伝わらなかったようですね。今も昔も源氏の君に夢中なのですもの。
それだから、源氏の君は余計に帝を馬鹿にしているのです。賀茂神社の斎院との噂だって事実に決まっていますよ。源氏の君は東宮の後見役ですから、早く東宮が帝になればよいのにと思っているのでしょう」
右大臣様は皇太后様のあまりのお怒りに驚いて、
「まぁ、そうひどく言うでない。今回のことはしばらく内密にして、帝にもお伝えなさるな。尚侍は帝のご愛情に甘えているのだ。そなたから尚侍に注意しておくれ。それで駄目なら、私が父親として責任をとる」
とあわてておっしゃった。
深く考えもせずに皇太后様に報告したことを後悔していらっしゃったわ。
皇太后様のお怒りは収まらない。
<私が右大臣邸にいることを知りながら忍びこんでくるなんて、源氏の君はどれだけ私たちを馬鹿にしているのだ。あぁ、腹が立つ>
と、扇でひじ置きをしきりにお叩きになる。
しばらくするとその音がやんで、皇太后様はにやりとなさった。
<しかしうまくやれば、これは源氏の君を打ちのめすよいきっかけになるかもしれぬ>
不敵にほほえまれたまま、あれこれと考えをめぐらせて計画を立てていかれる。
お年をとられてからは、さらに気が短くなっておられる。
すぐに皇太后様にご報告なさったわ。
「たった今、源氏の君が尚侍の部屋にいるところを見つけてしまった。あのふたりはまだ関係が続いていたらしい。私の屋敷に忍びこんで、まるで婿のようにくつろいでいたよ。正気とは思えぬ。
五年前にふたりの関係が明らかになって、尚侍は今の帝とのご結婚が破談になった。私は源氏の君に対してもっと厳しく出てもよかったのだが、罪を許して婿にしてやろうと言ったのだ。それをあっさり断ったくせに、その後も関係が切れていなかったとは。
あの不祥事さえなければ、姫を女官ではなく妃として内裏に上がらせられた。それでも帝は姫を愛して、尚侍にまで出世させてくださったのだ。その姫を、源氏の君はまだ自分の女として扱うつもりか。
どうやら源氏の君には帝に逆らう気持ちがあるらしい。恐れ多いことに、賀茂神社の斎院にも恋文を送っているという噂がある。神聖な斎院や、帝に愛されている姫に手を出すのは、源氏の君が帝を軽んじている証拠だろう。まさかこれほど非常識なことをするとは思っていなかった」
皇太后様は父君である右大臣様よりもさらに激しいご性格なので、お話を聞いて激怒なさった。
「なんということ。帝はお気の毒な方ですよ。昔から皆、帝より弟の源氏の君の方を持ち上げるのですもの。引退した左大臣だってそうだったでしょう。帝がまだ東宮様でいらっしゃったころ、一人娘を東宮様ではなく、まだ幼い源氏の君の正妻にした。
その源氏の君が、父君や私が妃にしようと大切にしていた姫に手をつけてしまわれたのです。あのとき父君は、源氏の君に厳しい態度をおとりになるべきでした。婿にしようだなんて生ぬるいことをおっしゃったところから、あの姫の人生は転落しはじめたのですよ。あっさり断ってきた源氏の君を見返してやろうと、私は姫の女官としての人生を応援していましたが、姫本人には伝わらなかったようですね。今も昔も源氏の君に夢中なのですもの。
それだから、源氏の君は余計に帝を馬鹿にしているのです。賀茂神社の斎院との噂だって事実に決まっていますよ。源氏の君は東宮の後見役ですから、早く東宮が帝になればよいのにと思っているのでしょう」
右大臣様は皇太后様のあまりのお怒りに驚いて、
「まぁ、そうひどく言うでない。今回のことはしばらく内密にして、帝にもお伝えなさるな。尚侍は帝のご愛情に甘えているのだ。そなたから尚侍に注意しておくれ。それで駄目なら、私が父親として責任をとる」
とあわてておっしゃった。
深く考えもせずに皇太后様に報告したことを後悔していらっしゃったわ。
皇太后様のお怒りは収まらない。
<私が右大臣邸にいることを知りながら忍びこんでくるなんて、源氏の君はどれだけ私たちを馬鹿にしているのだ。あぁ、腹が立つ>
と、扇でひじ置きをしきりにお叩きになる。
しばらくするとその音がやんで、皇太后様はにやりとなさった。
<しかしうまくやれば、これは源氏の君を打ちのめすよいきっかけになるかもしれぬ>
不敵にほほえまれたまま、あれこれと考えをめぐらせて計画を立てていかれる。



