初夏の雨がのどかに降ってお暇なころ、三位中将様がいらっしゃった。
昔の中国の詩を使って、問題を出し合う遊びをしようということになったの。
詩のなかの文字をところどころ伏せて「ここに当てはまる漢字は何でしょうか」という問題を出し合うのよ。
参加者を左組と右組に分けて、それぞれの組が<これは分からないだろう>という問題を作って相手組に解かせるの。
源氏の君が左組、三位中将様が右組を率いられる。
おふたりのうちお負けになった方が、勝った組の方たちにご馳走と賞品をふるまうのよ。
呼ばれて集まった参加者は、大学の博士や学生、それに貴族の方たちもいらっしゃる。
初めのうちは順調に解いていかれるけれど、だんだんと難しいところばかりが残っていく。
博士などでも悩んでしまうような難問を、源氏の君はさりげなく正解なさる。
参加者たちは、
「何もかも優れた源氏の君だが、このようなこともお得意なのか」
とほめていたわ。
やはり源氏の君の左組の勝ちで終わった。
二日ほどして、負けた三位中将様は左組の方たちをご実家の左大臣邸にお招きになった。
宴会を開いて、おおげさではないけれど、手の込んだお食事を出しておもてなしなさる。
賞品もいろいろとご用意なさっていたわ。
余興として参加者が中国の詩を作って、皆様で批評しあって楽しまれる。
お庭の薔薇が少しだけ咲いていた。
他の花が華やかに咲く春や秋よりも、風情があってよいものだったわ。
まるでこの会のようね。
右大臣様が威張ってぎすぎすしている内裏よりも、源氏の君と三位中将様のお暮らしの方が、よほど風情があって貴族らしいわ。
三位中将様の小さなご子息も、この宴会にいらっしゃっていた。
ご正妻がお生みになった二番目の男の子で、八歳くらい。
今年から見習いとして内裏で働いておられるの。
歌声が美しく笛も上手にお吹きになるので、源氏の君はかわいがっておられる。
ご正妻は右大臣様の姫君だから、このご子息は右大臣様の孫君。
というわけで、世間の人たちも将来を期待して大切にお仕えしている。
まだお小さいけれど、しっかりしたご性格で、ご容姿もお美しい。
宴会が盛り上がったころに、おめでたい歌をお歌いになったわ。
源氏の君はにこにことなさって、ご褒美にご自分のお着物を脱いでお与えになる。
いつもより上機嫌に笑っておられる源氏の君は、本当にお美しいの。
年老いた博士たちは、お姿を拝見して感動していたわ。
ご子息の歌が終わるころ、三位中将様が源氏の君に杯を差し上げておっしゃった。
「自慢の息子と思って連れてまいりましたが、やはりあなた様のお美しさにはかないませんね」
源氏の君は笑いながら杯をお受けとりになって、
「私などはもうしおれていますよ。これからはご子息の時代でしょう」
とお返事なさった。
「またそのように冗談にしてしまわれる。私は本心から申し上げているのに」
と三位中将様は源氏の君をお責めになって、しきりにお酒をおすすめになるの。
こんなふうに上機嫌でお過ごしになっているけれど、政治の場から除け者にされたことに悔しいお気持ちはおありになる。
ご自分のお血筋にも自信をもっていらっしゃるから、お酒でご気分のよくなった源氏の君は、歌うようにおっしゃった。
「私は亡き上皇様の子であり、帝の弟であり、東宮様の……」
その先を口になさることはできない。
<東宮様の父である>
お胸のうちでひそかにおっしゃった。
あら、少ししゃべりすぎたかしら。
お酒の席の会話を、あとからぺらぺらと人に話すのはよくないわね。
このあたりにしておかないと。
昔の中国の詩を使って、問題を出し合う遊びをしようということになったの。
詩のなかの文字をところどころ伏せて「ここに当てはまる漢字は何でしょうか」という問題を出し合うのよ。
参加者を左組と右組に分けて、それぞれの組が<これは分からないだろう>という問題を作って相手組に解かせるの。
源氏の君が左組、三位中将様が右組を率いられる。
おふたりのうちお負けになった方が、勝った組の方たちにご馳走と賞品をふるまうのよ。
呼ばれて集まった参加者は、大学の博士や学生、それに貴族の方たちもいらっしゃる。
初めのうちは順調に解いていかれるけれど、だんだんと難しいところばかりが残っていく。
博士などでも悩んでしまうような難問を、源氏の君はさりげなく正解なさる。
参加者たちは、
「何もかも優れた源氏の君だが、このようなこともお得意なのか」
とほめていたわ。
やはり源氏の君の左組の勝ちで終わった。
二日ほどして、負けた三位中将様は左組の方たちをご実家の左大臣邸にお招きになった。
宴会を開いて、おおげさではないけれど、手の込んだお食事を出しておもてなしなさる。
賞品もいろいろとご用意なさっていたわ。
余興として参加者が中国の詩を作って、皆様で批評しあって楽しまれる。
お庭の薔薇が少しだけ咲いていた。
他の花が華やかに咲く春や秋よりも、風情があってよいものだったわ。
まるでこの会のようね。
右大臣様が威張ってぎすぎすしている内裏よりも、源氏の君と三位中将様のお暮らしの方が、よほど風情があって貴族らしいわ。
三位中将様の小さなご子息も、この宴会にいらっしゃっていた。
ご正妻がお生みになった二番目の男の子で、八歳くらい。
今年から見習いとして内裏で働いておられるの。
歌声が美しく笛も上手にお吹きになるので、源氏の君はかわいがっておられる。
ご正妻は右大臣様の姫君だから、このご子息は右大臣様の孫君。
というわけで、世間の人たちも将来を期待して大切にお仕えしている。
まだお小さいけれど、しっかりしたご性格で、ご容姿もお美しい。
宴会が盛り上がったころに、おめでたい歌をお歌いになったわ。
源氏の君はにこにことなさって、ご褒美にご自分のお着物を脱いでお与えになる。
いつもより上機嫌に笑っておられる源氏の君は、本当にお美しいの。
年老いた博士たちは、お姿を拝見して感動していたわ。
ご子息の歌が終わるころ、三位中将様が源氏の君に杯を差し上げておっしゃった。
「自慢の息子と思って連れてまいりましたが、やはりあなた様のお美しさにはかないませんね」
源氏の君は笑いながら杯をお受けとりになって、
「私などはもうしおれていますよ。これからはご子息の時代でしょう」
とお返事なさった。
「またそのように冗談にしてしまわれる。私は本心から申し上げているのに」
と三位中将様は源氏の君をお責めになって、しきりにお酒をおすすめになるの。
こんなふうに上機嫌でお過ごしになっているけれど、政治の場から除け者にされたことに悔しいお気持ちはおありになる。
ご自分のお血筋にも自信をもっていらっしゃるから、お酒でご気分のよくなった源氏の君は、歌うようにおっしゃった。
「私は亡き上皇様の子であり、帝の弟であり、東宮様の……」
その先を口になさることはできない。
<東宮様の父である>
お胸のうちでひそかにおっしゃった。
あら、少ししゃべりすぎたかしら。
お酒の席の会話を、あとからぺらぺらと人に話すのはよくないわね。
このあたりにしておかないと。



