野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)

左大臣(さだいじん)様のご子息(しそく)たちも、お人柄(ひとがら)がよくてご出世なさっていたけれど、今は勢いを失ってつまらなそうにしていらっしゃる。
頭中将(とうのちゅうじょう)様は、三位(さんみ)という高い(くらい)に上がられているのに、お役職(やくしょく)中将(ちゅうじょう)のまま。
三位(さんみの)中将(ちゅうじょう)様」とお呼びされているわ。

右大臣(うだいじん)様の四番目の姫君(ひめぎみ)をご正妻(せいさい)にしていらっしゃるのだから、本当は右大臣様の婿君(むこぎみ)として、もっと高いお役職にご出世なさっていてもおかしくないのよ。
でも、三位中将様は奥様をあまり大切にしていらっしゃらないの。
ご訪問もたまにしかなさらないから、右大臣様は婿君として信頼していらっしゃらない。
<私にそのような態度をとるとどうなるか、思い知るがよい>
とばかりに、わざと出世させず、お役職を中将のままにしておかれるの。

三位中将様はそれほど気にしておられない。
源氏(げんじ)(きみ)でさえご出世なさらないような間違った世の中なのだから、自分が出世できないのも当然だろう>
くらいに思っていらっしゃる。
たびたび二条(にじょう)(いん)に遊びにきては、源氏の君とご一緒にご学問をしたり、楽器の演奏をしたりなさっているの。
長年おふたりは何をするときでも好敵手(こうてきしゅ)でいらっしゃったから、今もちょっとしたことで楽しそうに競い合っておられる。

源氏の君は、内裏(だいり)に上がって働こうというお気持ちをすっかりなくされている。
お時間があるので、仏教(ぶっきょう)の行事をしたり、暇そうな博士を呼びあつめてご学問の遊びをしたりして過ごしていらっしゃるの。
しだいにそれが世間から悪く言われるようになってしまったわ。