野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)

中宮(ちゅうぐう)様は今も内裏(だいり)にいらっしゃる。
源氏(げんじ)(きみ)は、お寺の山からお持ち帰りになった紅葉(もみじ)の枝を中宮様にお届けになった。
あまりに長く中宮様を無視なさっているから、そろそろ世間が(あや)しむかもしれないとご心配なさったの。

女房(にょうぼう)を通じて、何気ないふうにご挨拶(あいさつ)を申し上げる。
「内裏に上がられたと(うかが)いました。あいにく体調が悪く、お(とも)もせずに失礼いたしました。その後はお寺にこもっておりまして、長らくご連絡もさしあげられなかったのでございます」
女房は見事な紅葉の枝を中宮様にお見せした。
すると、枝の目立たないところに、小さな紙が結びつけてあるの。
恋文よ。
中宮様の顔色がさっと変わった。
誰にも気づかれないように紙を外してお隠しになる。
<なんて大胆(だいたん)なことを。誰かが気づいたら怪しむだろうに>
とうんざりなさって、紅葉の枝はお部屋から遠いところに飾るようお命じになったわ。

中宮様は、東宮(とうぐう)様のことに関しては源氏の君を頼ってお手紙をお送りになることもある。
そういうお手紙しかいただけないことを、源氏の君は(うら)めしくお思いになっていた。
<しかし、これまでずっと東宮様の後見(こうけん)をしてきたのだから、急に態度を変えては世間が怪しむだろう>
と、中宮様が内裏からご実家へお下がりになる日にはお供をすることになさったわ。