女房たちが心配していたとおりのことが起きた。
源氏の君は小部屋からそっとすべり出て、中宮様がいらっしゃるお部屋にお入りになったの。
物陰に隠れていらっしゃるから、中宮様はお気づきにならない。
「まだ胸が苦しい。このまま死んでしまうのだろうか」
とつぶやいておられる横顔が、はかなげでお美しいのよ。
源氏の君は思わず涙を流してご覧になる。
女房が果物をお出ししたらしいけれど、手つかずになっている。
お髪の感じや、気品のあるお姿はどんな女性よりもすばらしい。
源氏の君は、二条の院の紫の上が中宮様にそっくりなことに驚かれた。
それでもやはり、中宮様の方が一段すぐれていらっしゃるような気がなさる。
十年以上も許されぬ恋をしておられるのだものね。
源氏の君は物陰をつたって中宮様の後ろに近づかれる。
中宮様のお着物の裾を少し引くと、その動きで源氏の君の香りがさっとあたりに漂った。
お気づきになった中宮様は、思わずうつぶせになってしまわれる。
<こちらを向いてもくださらぬのか>
と、源氏の君は中宮様を抱き起こそうとなさる。
中宮様は一番上のお着物だけを残して逃げようとなさるけれど、なんと源氏の君は中宮様のお髪をつかんでいらっしゃるの。
源氏の君はふつうではいらっしゃらない。
いろいろなことを泣きながらおっしゃるけれど、中宮様は、
「具合が悪うございますので、お話はまた今度お聞きいたしましょう」
とだけおっしゃる。
中宮様のお心をなんとか動かしたい源氏の君と、お心を動かされまいと押さえこむ中宮様、そうして今夜も明けていくの。
中宮様は無理やりにどうにかできるようなご様子ではない。
さすがの源氏の君もご遠慮してしまうような、厳しいご態度でいらっしゃるの。
源氏の君は何もできないまま、
「恐れ多いことなどいたしません。こうしてときどきお話を聞いていただけるだけで、私は満足いたしますから」
と、健気なことをおっしゃる。
どこまでも切ないおふたりですこと。
すっかり夜が明けてしまった。
ここから大変なのは事情を知っている女房ふたりよ。
源氏の君を説得して、誰にも気づかれないうちにお屋敷から出ていっていただかなくてはならないのだもの。
中宮様は茫然としておられる。
源氏の君は思いつめたご様子で、
「こんな私など死んでしまえばよいのでしょうね。そうしたらあなたはご自分を責めてくださいますか」
とおっしゃる。
目が完全に据わっているの。
これには中宮様も黙っていられず、
「責めるべきはあなたのお心でございましょう」
と静かにおっしゃる。
源氏の君はあいかわらず正体を失ったままでいらっしゃるけれど、このままここに留まっても誰のためにもならないことくらいはお分かりになった。
満足も納得もなさらないまま、お屋敷から出ていかれたわ。
源氏の君は小部屋からそっとすべり出て、中宮様がいらっしゃるお部屋にお入りになったの。
物陰に隠れていらっしゃるから、中宮様はお気づきにならない。
「まだ胸が苦しい。このまま死んでしまうのだろうか」
とつぶやいておられる横顔が、はかなげでお美しいのよ。
源氏の君は思わず涙を流してご覧になる。
女房が果物をお出ししたらしいけれど、手つかずになっている。
お髪の感じや、気品のあるお姿はどんな女性よりもすばらしい。
源氏の君は、二条の院の紫の上が中宮様にそっくりなことに驚かれた。
それでもやはり、中宮様の方が一段すぐれていらっしゃるような気がなさる。
十年以上も許されぬ恋をしておられるのだものね。
源氏の君は物陰をつたって中宮様の後ろに近づかれる。
中宮様のお着物の裾を少し引くと、その動きで源氏の君の香りがさっとあたりに漂った。
お気づきになった中宮様は、思わずうつぶせになってしまわれる。
<こちらを向いてもくださらぬのか>
と、源氏の君は中宮様を抱き起こそうとなさる。
中宮様は一番上のお着物だけを残して逃げようとなさるけれど、なんと源氏の君は中宮様のお髪をつかんでいらっしゃるの。
源氏の君はふつうではいらっしゃらない。
いろいろなことを泣きながらおっしゃるけれど、中宮様は、
「具合が悪うございますので、お話はまた今度お聞きいたしましょう」
とだけおっしゃる。
中宮様のお心をなんとか動かしたい源氏の君と、お心を動かされまいと押さえこむ中宮様、そうして今夜も明けていくの。
中宮様は無理やりにどうにかできるようなご様子ではない。
さすがの源氏の君もご遠慮してしまうような、厳しいご態度でいらっしゃるの。
源氏の君は何もできないまま、
「恐れ多いことなどいたしません。こうしてときどきお話を聞いていただけるだけで、私は満足いたしますから」
と、健気なことをおっしゃる。
どこまでも切ないおふたりですこと。
すっかり夜が明けてしまった。
ここから大変なのは事情を知っている女房ふたりよ。
源氏の君を説得して、誰にも気づかれないうちにお屋敷から出ていっていただかなくてはならないのだもの。
中宮様は茫然としておられる。
源氏の君は思いつめたご様子で、
「こんな私など死んでしまえばよいのでしょうね。そうしたらあなたはご自分を責めてくださいますか」
とおっしゃる。
目が完全に据わっているの。
これには中宮様も黙っていられず、
「責めるべきはあなたのお心でございましょう」
と静かにおっしゃる。
源氏の君はあいかわらず正体を失ったままでいらっしゃるけれど、このままここに留まっても誰のためにもならないことくらいはお分かりになった。
満足も納得もなさらないまま、お屋敷から出ていかれたわ。



