政治を思いのままにできない帝を、優しくお支えしている人がいたの。
内裏で女官として働いていらっしゃる朧月夜の君よ。
この姫君は、源氏の君との関係が噂になったせいで、東宮時代の帝とご結婚なさることができなくなってしまった。
それで女官として内裏に上がられたのだけれど、出世して、今は「尚侍」という高い役職に就いていらっしゃった。
上品で人柄も優れているから、帝からご愛情もいただいておられる。
女御様や更衣様のようなお妃様とはお立場が違うけれど、実際はどのお妃様より愛されているみたい。
内裏では弘徽殿に住んでいらっしゃる。
弘徽殿といえば、朧月夜の君の姉君でいらっしゃる皇太后様が、女御時代にお暮らしになっていた建物ね。
でも、朧月夜の君は皇太后様とは似ても似つかない。
自由で華やかで、帝はずいぶん救われていらっしゃった。
だから深いご愛情で大切になさるの。
それなのに朧月夜の君は、源氏の君のことをずっと忘れられない。
源氏の君も、ときどきこっそりとお手紙をお送りになる。
女官とはいえ帝が愛する女性と手紙のやりとりだなんて、かなり危険なことよ。
源氏の君は、
<人に知られたら大変なことになる>
とお思いになるけれど、ほら、厄介な女性にこそ夢中になってしまわれるご性格だものね。
おふたりがお会いになるのは、危険ではあるけれど難しいことではないの。
お互いに思いあっている大人同士なのだから、どうとでもやり方はあるわ。
その夜も、源氏の君は弘徽殿にそっと忍びこんでいらっしゃった。
特別に人目が多い夜だったから、恐ろしくお思いになる。
でも、危険のなかで会うのって盛り上がるのよね。
女君は人生で一番お美しいとき。
ご身分にふさわしい重々しさはないけれど、華やかで若々しくて源氏の君はたまらない。
夜明けが近づこうとしている。
女君は、
「あなたに飽きられる日が怖いわ。私の方があなたを好きなのだもの」
と、めずらしく気弱そうにおっしゃる。
源氏の君はますます女君が愛しくなって、
「あなたに飽きることなどあるものですか」
と優しくおなぐさめになったわ。
源氏の君はこっそりと弘徽殿から出ていかれた。
霧が立ちこめているけれど、月明かりでぼんやりとお姿が見える。
見る人が見れば、源氏の君だということははっきりと分かる。
ふつうの人とは全然違うお美しさだもの。
でも、このときばかりは人並みのお美しさの方がよかったかもしれない。
源氏の君は気づいておられなかったけれど、弘徽殿から出ていらっしゃるところを、偶然ひとりの貴族が見ていたの。
これまで運良く守りつづけられた秘密が、ついにほころびはじめたわ。
内裏で女官として働いていらっしゃる朧月夜の君よ。
この姫君は、源氏の君との関係が噂になったせいで、東宮時代の帝とご結婚なさることができなくなってしまった。
それで女官として内裏に上がられたのだけれど、出世して、今は「尚侍」という高い役職に就いていらっしゃった。
上品で人柄も優れているから、帝からご愛情もいただいておられる。
女御様や更衣様のようなお妃様とはお立場が違うけれど、実際はどのお妃様より愛されているみたい。
内裏では弘徽殿に住んでいらっしゃる。
弘徽殿といえば、朧月夜の君の姉君でいらっしゃる皇太后様が、女御時代にお暮らしになっていた建物ね。
でも、朧月夜の君は皇太后様とは似ても似つかない。
自由で華やかで、帝はずいぶん救われていらっしゃった。
だから深いご愛情で大切になさるの。
それなのに朧月夜の君は、源氏の君のことをずっと忘れられない。
源氏の君も、ときどきこっそりとお手紙をお送りになる。
女官とはいえ帝が愛する女性と手紙のやりとりだなんて、かなり危険なことよ。
源氏の君は、
<人に知られたら大変なことになる>
とお思いになるけれど、ほら、厄介な女性にこそ夢中になってしまわれるご性格だものね。
おふたりがお会いになるのは、危険ではあるけれど難しいことではないの。
お互いに思いあっている大人同士なのだから、どうとでもやり方はあるわ。
その夜も、源氏の君は弘徽殿にそっと忍びこんでいらっしゃった。
特別に人目が多い夜だったから、恐ろしくお思いになる。
でも、危険のなかで会うのって盛り上がるのよね。
女君は人生で一番お美しいとき。
ご身分にふさわしい重々しさはないけれど、華やかで若々しくて源氏の君はたまらない。
夜明けが近づこうとしている。
女君は、
「あなたに飽きられる日が怖いわ。私の方があなたを好きなのだもの」
と、めずらしく気弱そうにおっしゃる。
源氏の君はますます女君が愛しくなって、
「あなたに飽きることなどあるものですか」
と優しくおなぐさめになったわ。
源氏の君はこっそりと弘徽殿から出ていかれた。
霧が立ちこめているけれど、月明かりでぼんやりとお姿が見える。
見る人が見れば、源氏の君だということははっきりと分かる。
ふつうの人とは全然違うお美しさだもの。
でも、このときばかりは人並みのお美しさの方がよかったかもしれない。
源氏の君は気づいておられなかったけれど、弘徽殿から出ていらっしゃるところを、偶然ひとりの貴族が見ていたの。
これまで運良く守りつづけられた秘密が、ついにほころびはじめたわ。



