野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)

(みかど)母君(ははぎみ)である皇太后(こうたいごう)様は、露骨(ろこつ)な方でいらっしゃる。
上皇(じょうこう)様のご存命(ぞんめい)(ちゅう)はさすがに我慢なさっていたけれど、お亡くなりになってからは「これまでの仕返しだ」と言わんばかりに源氏の君に意地悪をなさるの。
源氏の君は、
<やはりこうなってしまうか>
とうんざりなさって、もう内裏(だいり)に上がる気にもおなりになれない。

皇太后様は左大臣(さだいじん)様にも仕返しをなさる。
左大臣様の姫君(ひめぎみ)を、東宮(とうぐう)時代の帝ではなく、源氏の君と結婚させたことをいまだに(うら)んでいらっしゃるのよ。
皇太后様の父君(ちちぎみ)である右大臣(うだいじん)様も、左大臣様を軽んじて得意顔で政治をなさっている。
もともと左大臣様は、上皇様に信頼されて政治の権力を握っておられたから、上皇様がお亡くなりになったら権力の理由がなくなってしまうのよね。
そうなると、帝の祖父君(そふぎみ)でもある右大臣様のお立場は強い。
左大臣様はつまらなくお思いになって、こちらも内裏に上がられなくなってしまわれた。

お暇ができた源氏の君は、熱心に左大臣(さだいじん)(てい)をご訪問なさる。
正妻(せいさい)(のこ)していかれた若君(わかぎみ)を、それはそれは大切にかわいがられるの。
左大臣様は感激していらっしゃった。
あちこちの恋人たちともほとんど(えん)が切れて、ご自宅の二条(にじょう)(いん)か、左大臣邸でのんびりとお暮らしになっている。
ご正妻がお元気のころより、今の方が理想的な婿君(むこぎみ)のようなおふるまいだったわ。