野いちご源氏物語 一〇 賢木(さかき)

東宮(とうぐう)様もまた、ただの皇子(みこ)ではいらっしゃらないから、内裏(だいり)をお出になるとなればきまりがたくさんある。
(みかど)とご一緒にご訪問なさるとあちこちが大騒ぎになってしまうので、気を(つか)って別の日に上皇(じょうこう)様のところへいらっしゃった。

ご年齢のわりに落ち着いておられてお美しいわ。
でもやはり幼くていらっしゃるのよね。
ひさしぶりにお父君(ちちぎみ)とお母君(ははぎみ)にお会いできたことがうれしくて、無邪気ににこにこしていらっしゃるの。
そのご様子がかえってお気の毒で、中宮(ちゅうぐう)様は涙に沈んでしまわれる。
そしてそれをご覧になった上皇様もお心が乱れてしまわれたわ。

上皇様は東宮様にもさまざまなことを教えようとなさるけれど、やはりまだ政治のお話はご理解が難しい。
<もう何年か生きて、この子に帝になる心構えを教えたかったが>
と悲しくお思いになる。
源氏(げんじ)(きみ)も東宮様のお(とも)をしてお見舞いに来ていらっしゃった。
上皇様は源氏の君に、政治家としての心構えや、東宮様の後見(こうけん)のことを繰り返し繰り返しおっしゃったわ。
東宮様はすっかり夜が更けてからお帰りになった。
帝に負けるとも劣らない、ご立派なお行列よ。
あっという間にお帰りになってしまったことを、上皇様は残念がっていらっしゃった。