野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)

 桐壺(きりつぼ)院(いん)の別の弟宮(おとうとみや)には、式部卿(しきぶきょう)の宮(みや)という方もいらっしゃる。この宮の姫君(ひめぎみ)に、源氏(げんじ)の君(きみ)は十代のころから片思いをなさっていた。
 覚えているかしら。紀伊(き)の守(かみ)の屋敷に源氏の君がお泊まりになったときの、女房(にょうぼう)たちの噂話(うわさばなし)。源氏の君が朝顔を添(そ)えて手紙を送ったお相手は、この姫君だった。だから朝顔の姫君とお呼びいたしましょう。
 朝顔の姫君も六条(ろくじょう)の御息所(みやすんどころ)の苦しみをお聞きになった。
<私はそんなふうになりたくない>
 ご決意はますます強くなって、源氏の君からの手紙にほとんど返事をなさらない。とはいえ、気まずい思いをおさせになることもなかった。そのあたりの思慮(しりょ)深さがさすがだと源氏の君は感心なさっている。