野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)

それでもやはり、気にかかる恋人はいらっしゃる。
六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)は捨ててしまわれることができそうにないの。
<あの方は妻にしたら息苦しいに違いないけれど、ときどき風流なお手紙のやりとりをするだけなら最高だろう。あまり頻繁にお訪ねしなくても、(うら)んだり悩んだりなさらないご性格ならよかったのだが>
と、ずいぶん勝手なことをお思いになる。

その一方で、(むらさき)(うえ)のことは世間に知らせようとお決めになった。
二条(にじょう)(いん)にいるのがどのような女性か、世間が知らないままなのはよくない。紫の上の父宮(ちちみや)にも事情をお話ししよう>
と、紫の上の裳着(もぎ)——女の子の成人式、をご計画なさる。

紫の上は源氏(げんじ)(きみ)にお心を閉ざしたままでいらっしゃった。
下心(したごころ)というものの存在さえ知らず、源氏の君を頼って甘えていたなんて。いくら幼かったとはいえ、(おろ)かで浅はかだったわ>
と悔しくお思いになる。
目もお合わせにならないの。
源氏の君がご冗談をおっしゃっても、不機嫌なお顔で面倒そうにしておられる。

そのご様子をご覧になって、
<あんなにも素直でかわいらしい姫君(ひめぎみ)だったのに>
と、源氏の君は呑気(のんき)に楽しんでいらっしゃるの。
「私もずいぶん我慢したのですよ。誠意は時間をかけて十分お伝えしたと思っていましたが、あなたには伝わっていなかったのですね。悲しいことです」
(なぐさ)めておられるうちに、新しい年になったわ。