その日は、お餅を食べて健康を祈る行事の日だったの。
源氏の君は家来の惟光にそっと耳打ちなさる。
「明日の夕方にも餅を持ってまいれ」
ほほえみながら上機嫌でおっしゃるので、惟光は気づいたわ。
「明日はお日柄がよろしゅうございますからね。おいくつお持ちいたしましょうか」
とお尋ねすると、
「今日の三分の一ほどでよい」
とお答えになる。
惟光まで上機嫌になって下がっていったわ。
<気が利いて役に立つ男だ>
と、源氏の君は惟光の後ろ姿をご覧になる。
惟光は実家に下がって、こっそりとお餅の準備にとりかかった。
このお餅はね、源氏の君と姫君のご結婚祝いのお餅なの。
姫君はまだすねていらっしゃる。
源氏の君は、
<もう四年も一緒に暮らしてきたというのに、今、突然に連れてこられた人のようなすね方だな。それにしても、今までこの人を愛しいと思っていたのは何だったのだろう。こういう関係になると、これまでの何万倍も愛しくなる。もう一晩だって離れることはできないだろう>
とお思いになった。
翌日の夜遅くなってから、惟光は誰にも気づかれないようにお餅を持ってやって来た。
<姫君の乳母に渡したら、姫君は恥ずかしくお思いになるかもしれない>
と気を利かせて、乳母の若い娘を呼んだわ。
中身が分からないようにした箱を差し出して、
「これをこっそり姫君のご寝室にお置きなさい」
と言う。
乳母の娘は不思議そうにしているから、
「お祝いのお品です。枕もとのあたりにお置きになるように」
と惟光は小声で説明した。
若い娘なので、よく分からないけれど言われたとおりに持っていったみたいね。
源氏の君は姫君に、
「私とあなたが結婚したことをお祝いするお餅ですよ。一緒に食べて、末永く仲良く暮らしましょうね」
とご説明なさる。
翌朝、驚いたのは女房たちよ。
お餅が少し残っている箱をご寝室から下げた女房がいたの。
周りにいた女房たちはそれを見て、
「まぁ、これは」
「ご結婚なさったということね。お餅なんていったい誰がご用意したのかしら」
「惟光様のようでございますよ」
「あら、私たちにお命じくださればよろしかったのに」
と、にこにこ話しはじめた。
乳母は、
<ついに姫様は源氏の君とご夫婦になられたのだ。しかもお祝いのお餅まで、きちんとご用意してくださった>
と感激して泣いていたわ。
もう「若紫の君」とお呼びするのは恐れ多いわね。
これからは「紫の上」とお呼びいたしましょう。
源氏の君は家来の惟光にそっと耳打ちなさる。
「明日の夕方にも餅を持ってまいれ」
ほほえみながら上機嫌でおっしゃるので、惟光は気づいたわ。
「明日はお日柄がよろしゅうございますからね。おいくつお持ちいたしましょうか」
とお尋ねすると、
「今日の三分の一ほどでよい」
とお答えになる。
惟光まで上機嫌になって下がっていったわ。
<気が利いて役に立つ男だ>
と、源氏の君は惟光の後ろ姿をご覧になる。
惟光は実家に下がって、こっそりとお餅の準備にとりかかった。
このお餅はね、源氏の君と姫君のご結婚祝いのお餅なの。
姫君はまだすねていらっしゃる。
源氏の君は、
<もう四年も一緒に暮らしてきたというのに、今、突然に連れてこられた人のようなすね方だな。それにしても、今までこの人を愛しいと思っていたのは何だったのだろう。こういう関係になると、これまでの何万倍も愛しくなる。もう一晩だって離れることはできないだろう>
とお思いになった。
翌日の夜遅くなってから、惟光は誰にも気づかれないようにお餅を持ってやって来た。
<姫君の乳母に渡したら、姫君は恥ずかしくお思いになるかもしれない>
と気を利かせて、乳母の若い娘を呼んだわ。
中身が分からないようにした箱を差し出して、
「これをこっそり姫君のご寝室にお置きなさい」
と言う。
乳母の娘は不思議そうにしているから、
「お祝いのお品です。枕もとのあたりにお置きになるように」
と惟光は小声で説明した。
若い娘なので、よく分からないけれど言われたとおりに持っていったみたいね。
源氏の君は姫君に、
「私とあなたが結婚したことをお祝いするお餅ですよ。一緒に食べて、末永く仲良く暮らしましょうね」
とご説明なさる。
翌朝、驚いたのは女房たちよ。
お餅が少し残っている箱をご寝室から下げた女房がいたの。
周りにいた女房たちはそれを見て、
「まぁ、これは」
「ご結婚なさったということね。お餅なんていったい誰がご用意したのかしら」
「惟光様のようでございますよ」
「あら、私たちにお命じくださればよろしかったのに」
と、にこにこ話しはじめた。
乳母は、
<ついに姫様は源氏の君とご夫婦になられたのだ。しかもお祝いのお餅まで、きちんとご用意してくださった>
と感激して泣いていたわ。
もう「若紫の君」とお呼びするのは恐れ多いわね。
これからは「紫の上」とお呼びいたしましょう。



