野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)

上皇(じょうこう)様は、ひさしぶりにお会いになった源氏(げんじ)(きみ)のお姿に驚かれた。
「ずいぶんと顔がやせたようだ。引きこもってお(きょう)ばかり読んで、ろくに食べていなかったのではないか」
とおっしゃって、源氏の君にお食事をお出しになるの。
源氏の君を少しでも元気づけようと、あれこれと優しくお話しになるのも恐れ多いことだったわ。

つづいて源氏の君は中宮(ちゅうぐう)様にご挨拶に行かれた。
中宮様は女房(にょうぼう)を通じて、
「奥様はおいたわしいことでございましたね。時が経てば経つほど、おつらくおなりなのではありませんか」
と源氏の君を気遣われる。

「命など永遠ではないと分かってはおりましたが、死を()()たりにするのはつらいことでございました。中宮様からのお見舞いにどれほど救われましたことでしょう。おかげさまで、またこちらに伺うことができました」
源氏の君は、奥様を亡くしたお悲しみと、あらためてわきあがる中宮様への許されぬ思いとで、二重に苦しんでいらっしゃる。

喪服(もふく)姿の源氏の君は、いつもの華やかな格好よりもお美しいくらいだったわ。
喪服が似合ってしまう人っているのよね。
源氏の君はそれから東宮(とうぐう)様のところへ行かれて、夜遅くなってから二条(にじょう)(いん)にお戻りになったわ。