野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)

源氏(げんじ)(きみ)六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)もご関係を秘密にしておられたけれど、世間ではすでに噂されていた。
上皇(じょうこう)様もご存じなくらいだもの。
御息所(みやすんどころ)のご身分を考えれば、ご正妻(せいさい)でいらっしゃる左大臣(さだいじん)様の姫君(ひめぎみ)と同格の扱いをしてさしあげてもよいくらいよ。
でもそれはなさらない。
このままでは申し訳ないとは思っておられるけれど、妻にするとなるとためらわれてしまう。

御息所の方は年齢差を気にしておられた。
ご自分はまもなく三十歳だというのに、源氏の君はまだ二十二歳でいらっしゃる。
なかなか打ちとけることはおできにならないの。
そのご態度を源氏の君は都合よく利用なさる。
「御息所がなかなか私をお認めくださらないから、私はご遠慮申し上げるしかないのだ」
と上皇様のおそばの女房(にょうぼう)にこぼして、さりげなく上皇様のお耳に入るようになさるの。
御息所はますますお(なげ)きになったわ。