奥様のご法要は一段落したけれど、源氏の君は四十九日まで左大臣邸にこもっていらっしゃる。
ご退屈だろうと、頭中将様がたびたびお越しになるの。
話題が豊富な方だから、真面目なお話もくだけたお話もなさる。
男好きな老女官の典侍のことを話して、源氏の君をお笑わせになることもあったわ。
「お気の毒ではないか。お年寄りをそのように言ってはいけないだろう」
と、源氏の君は笑いながら頭中将様をお叱りになる。
おふたりとも少しはご気分がまぎれるようだった。
おふたりが取り合われた女性といえば、典侍の他に常陸の宮様の姫君もいらっしゃる。
もう四年も前の話なの。
今となっては懐かしいと、何から何までお話しになって笑いあっておられる。
それでも最後には、おふたりともふっと悲しいお顔をなさった。
「さみしい世の中ですね」
「ええ、本当に」
と、お互いにうなずきながら泣いてしまわれたわ。
時雨が降っている夕暮れ時、今日も頭中将様は源氏の君のところへいらっしゃった。
奥様の兄君でいらっしゃる頭中将様は、もう薄い色の喪服をお召しになっている。
頭中将様は快活な男らしい方だから、濃い色の喪服よりもこちらの方が似合ってご立派に見えるわ。
源氏の君は頭中将様がお越しになっていることに気づかず、ぼんやりと濡れ縁に座っていらっしゃった。
手すりにもたれて、お庭の植え込みが枯れてしまっているのをご覧になっていたの。
風が強い。
頬杖をつきながら奥様のことをお考えになって、
「あなたはあの雲になったのでしょうか、この雨になったのでしょうか」
と独り言をおっしゃる。
頭中将様はそのお姿をご覧になって、
<なんと美しい人だ。この人を残して死んだ女性の魂は、あの世へ行けないのではないか。近くに留まって、いつまでも見ていたくなってしまうだろう>
とお思いになる。
あまりにじっと見つめていらっしゃるから、源氏の君がお気づきになったわ。
羽織っておられただけだったお着物の紐を、頭中将様に遠慮してさっと結ばれる。
源氏の君は頭中将様よりも、もう少し濃い色の喪服をお召しだった。
頭中将様は源氏の君のお隣に座りながら、空を見上げてごらんになる。
「どうでしょうね。どの雲が妹なのかな」
源氏の君は、
「雲も空もずいぶん暗いですね。私の心のようです」
と、とてもつらそうにおっしゃるの。
頭中将様は意外にお思いになった。
<妹のことをそれほど愛しておられたのか。父の左大臣に熱心に誘われてとか、上皇様に叱られてしまってとか、そういう理由で仕方なく妹のところにお越しになっていると思っていたのに。お気の毒なことだと勝手に同情していたが、妹を正妻として、本当に特別に思ってくださっていたのだ>
と、ますます妹君の死が悲しくなってしまわれたわ。
こうして考えると、奥様は左大臣家の光でいらっしゃったのね。
頭中将様がお帰りになったあと、源氏の君は、お庭の植え込みの根元に咲いていた撫子の花を折らせなさった。
そのお花を添えて、奥様の母君にお手紙をお書きになる。
「枯れてしまった植え込みの根元にそっと咲いておりました。まるで妻が遺していった若君のようではございませんか」
母君が若君をごらんになると、若君は無邪気にほほえまれた。
とてもおかわいらしいのよ。
母君はただでさえ涙もろくなっておられたから、こんなお手紙に涙がこぼれないわけがない。
「若君を見るたびに泣いております。この幼さで母親を亡くした子も、この年になって娘を亡くした私も悲しくて」
とお返事をお書きになった。
ご退屈だろうと、頭中将様がたびたびお越しになるの。
話題が豊富な方だから、真面目なお話もくだけたお話もなさる。
男好きな老女官の典侍のことを話して、源氏の君をお笑わせになることもあったわ。
「お気の毒ではないか。お年寄りをそのように言ってはいけないだろう」
と、源氏の君は笑いながら頭中将様をお叱りになる。
おふたりとも少しはご気分がまぎれるようだった。
おふたりが取り合われた女性といえば、典侍の他に常陸の宮様の姫君もいらっしゃる。
もう四年も前の話なの。
今となっては懐かしいと、何から何までお話しになって笑いあっておられる。
それでも最後には、おふたりともふっと悲しいお顔をなさった。
「さみしい世の中ですね」
「ええ、本当に」
と、お互いにうなずきながら泣いてしまわれたわ。
時雨が降っている夕暮れ時、今日も頭中将様は源氏の君のところへいらっしゃった。
奥様の兄君でいらっしゃる頭中将様は、もう薄い色の喪服をお召しになっている。
頭中将様は快活な男らしい方だから、濃い色の喪服よりもこちらの方が似合ってご立派に見えるわ。
源氏の君は頭中将様がお越しになっていることに気づかず、ぼんやりと濡れ縁に座っていらっしゃった。
手すりにもたれて、お庭の植え込みが枯れてしまっているのをご覧になっていたの。
風が強い。
頬杖をつきながら奥様のことをお考えになって、
「あなたはあの雲になったのでしょうか、この雨になったのでしょうか」
と独り言をおっしゃる。
頭中将様はそのお姿をご覧になって、
<なんと美しい人だ。この人を残して死んだ女性の魂は、あの世へ行けないのではないか。近くに留まって、いつまでも見ていたくなってしまうだろう>
とお思いになる。
あまりにじっと見つめていらっしゃるから、源氏の君がお気づきになったわ。
羽織っておられただけだったお着物の紐を、頭中将様に遠慮してさっと結ばれる。
源氏の君は頭中将様よりも、もう少し濃い色の喪服をお召しだった。
頭中将様は源氏の君のお隣に座りながら、空を見上げてごらんになる。
「どうでしょうね。どの雲が妹なのかな」
源氏の君は、
「雲も空もずいぶん暗いですね。私の心のようです」
と、とてもつらそうにおっしゃるの。
頭中将様は意外にお思いになった。
<妹のことをそれほど愛しておられたのか。父の左大臣に熱心に誘われてとか、上皇様に叱られてしまってとか、そういう理由で仕方なく妹のところにお越しになっていると思っていたのに。お気の毒なことだと勝手に同情していたが、妹を正妻として、本当に特別に思ってくださっていたのだ>
と、ますます妹君の死が悲しくなってしまわれたわ。
こうして考えると、奥様は左大臣家の光でいらっしゃったのね。
頭中将様がお帰りになったあと、源氏の君は、お庭の植え込みの根元に咲いていた撫子の花を折らせなさった。
そのお花を添えて、奥様の母君にお手紙をお書きになる。
「枯れてしまった植え込みの根元にそっと咲いておりました。まるで妻が遺していった若君のようではございませんか」
母君が若君をごらんになると、若君は無邪気にほほえまれた。
とてもおかわいらしいのよ。
母君はただでさえ涙もろくなっておられたから、こんなお手紙に涙がこぼれないわけがない。
「若君を見るたびに泣いております。この幼さで母親を亡くした子も、この年になって娘を亡くした私も悲しくて」
とお返事をお書きになった。



