ところで、源氏の君の年上の恋人である六条御息所のこと、覚えている?
上皇様の弟宮の未亡人でいらっしゃる方よ。
忘れ形見の姫宮とご一緒に、六条という場所のお屋敷に住んでおられる。
その姫宮が、まもなく伊勢神宮へ「斎宮」として行かれることになったの。
伊勢神宮で神様にお仕えしている人はたくさんいるけれど、そのなかでも斎宮は特別な役職よ。
皇族の未婚の女性が担当することになっていて、帝が交代なさると、斎宮も交代するきまりがあるの。
今回の帝の交代で、六条御息所の姫宮が新しい斎宮に選ばれたというわけ。
斎宮におなりになると、帝が交代なさるまでは都にお戻りになれない。
例外は、ご両親が亡くなるか、ご自分がご病気になられるかね。
そんな縁起の悪いことはお考えになりたくないでしょうから、とにかく長い間都から離れる覚悟をして伊勢へ向かわれるの。
御息所は悩んでいらっしゃった。
源氏の君に熱心に口説かれて恋人関係になったものの、それから源氏の君は冷たいの。
姫宮がまだ幼くていらっしゃるから、それを理由にご自分も伊勢へ行こうかと考えておいでになる。
離れてしまった方がお気持ちは楽よね。
上皇様はどこからかそれをお聞きになって、源氏の君をお叱りになった。
「六条御息所は、私の弟宮の妃だった人だ。弟は東宮のままで亡くなってしまったが、存命のころはそれはそれは御息所を大切にしていた。そなたが軽々しく扱ってよい女性ではない。私は斎宮になる姫宮を自分の娘のように思っている。その母君をそなたの浮気心で苦しめたら、世間も黙ってはいないだろう」
と厳しくおっしゃるので、源氏の君は<仰せのとおりだ>と恐縮しきっている。
上皇様は父親のお顔になって、かわいい源氏の君のためにお続けになる。
「どの女性にも恥をかかせてはならないよ。どなたにも公平に接して、女性の恨みを買うことがないように」
源氏の君は恐ろしくてお返事もできない。
<これだけ女性のことでご注意をいただいた挙句、万が一、上皇様に中宮様とのことが知られてしまったら>
と震えていらっしゃるの。
源氏の君はお顔も上げられないまま、逃げるようにお下がりになったわ。
上皇様の弟宮の未亡人でいらっしゃる方よ。
忘れ形見の姫宮とご一緒に、六条という場所のお屋敷に住んでおられる。
その姫宮が、まもなく伊勢神宮へ「斎宮」として行かれることになったの。
伊勢神宮で神様にお仕えしている人はたくさんいるけれど、そのなかでも斎宮は特別な役職よ。
皇族の未婚の女性が担当することになっていて、帝が交代なさると、斎宮も交代するきまりがあるの。
今回の帝の交代で、六条御息所の姫宮が新しい斎宮に選ばれたというわけ。
斎宮におなりになると、帝が交代なさるまでは都にお戻りになれない。
例外は、ご両親が亡くなるか、ご自分がご病気になられるかね。
そんな縁起の悪いことはお考えになりたくないでしょうから、とにかく長い間都から離れる覚悟をして伊勢へ向かわれるの。
御息所は悩んでいらっしゃった。
源氏の君に熱心に口説かれて恋人関係になったものの、それから源氏の君は冷たいの。
姫宮がまだ幼くていらっしゃるから、それを理由にご自分も伊勢へ行こうかと考えておいでになる。
離れてしまった方がお気持ちは楽よね。
上皇様はどこからかそれをお聞きになって、源氏の君をお叱りになった。
「六条御息所は、私の弟宮の妃だった人だ。弟は東宮のままで亡くなってしまったが、存命のころはそれはそれは御息所を大切にしていた。そなたが軽々しく扱ってよい女性ではない。私は斎宮になる姫宮を自分の娘のように思っている。その母君をそなたの浮気心で苦しめたら、世間も黙ってはいないだろう」
と厳しくおっしゃるので、源氏の君は<仰せのとおりだ>と恐縮しきっている。
上皇様は父親のお顔になって、かわいい源氏の君のためにお続けになる。
「どの女性にも恥をかかせてはならないよ。どなたにも公平に接して、女性の恨みを買うことがないように」
源氏の君は恐ろしくてお返事もできない。
<これだけ女性のことでご注意をいただいた挙句、万が一、上皇様に中宮様とのことが知られてしまったら>
と震えていらっしゃるの。
源氏の君はお顔も上げられないまま、逃げるようにお下がりになったわ。



