野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)

奥様の泣き声が静かになったので、母君(ははぎみ)がお薬を持っていらっしゃった。
「今ならお飲みになれますか」
とお声をおかけになる。
女房(にょうぼう)たちが奥様を抱きおこすと、陣痛(じんつう)が強くなったの。
それからしばらくして男のお子がお生まれになったわ。

左大臣(さだいじん)(てい)はよろこびに包まれた。
でも、さっきのちょっとした妖怪(ようかい)たちが、少女の口を借りてうるさく騒ぎつづけている。
出産では、子どもが無事に生まれても、母親の方はまだしばらく油断できないのよ。
あの妖怪たちの騒ぎ方を見ると、これからが心配になってくるわ。
そういえば、奥様から引き離せなかったしつこい妖怪は、どこへ消えたのかしら。

さてさて、大変だったご出産も無事にすんだと思われて、僧侶(そうりょ)たちは得意顔で汗をぬぐいながら帰っていった。
左大臣家の方たちも、気が抜けたように一息(ひといき)おつきになる。
ご出産からの回復を願うお祈りや、お子が無事に育つようにというお祈りが始められたわ。
でも、先ほどまでの緊張感はないの。
誰もかれも、お生まれになったばかりのお子に夢中でいらっしゃる。

上皇(じょうこう)様をはじめ、皇族や貴族の方たちからお祝いが届けられたわ。
とてもにぎやかでおめでたい雰囲気だったの。