野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)

しばらくして、賀茂(かも)神社(じんじゃ)の新斎院(さいいん)はまた大切な儀式をなさる。
実はこちらの方が本番なのだけれど、今回は源氏(げんじ)(きみ)はお行列のお(とも)をなさらない。
二条(にじょう)(いん)でのんびりとお過ごしになって、若紫(わかむらさき)(きみ)見物(けんぶつ)に行こうと思っていらっしゃるの。

奥様は左大臣(さだいじん)(てい)に引きこもっていらっしゃった。
六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)と場所取りで揉めたことが奥様には耐えられなくて、
<やはり見物なんて浮ついたことをするべきではなかった>
と、こちらはこちらで後悔していらっしゃる。
もちろん今回はお出かけになるおつもりはない。

奥様と御息所(みやすんどころ)の事件のことは、源氏の君のお耳にも入っていたわ。
<あの人はご自分が正しいと思っておられるだろうが、真面目すぎて思いやりが足りないのだ。それを感じとった左大臣(さだいじん)()の家来が、御息所を見下してもよいと思いあがったのだろう。御息所は繊細な方でいらっしゃる。お気の毒なことになってしまった>
とご心配なさって、それからすぐに御息所のお屋敷をお訪ねになったのよ。

でも、御息所はお会いにならなかった。
伊勢(いせ)神宮(じんぐう)の新斎宮(さいぐう)に選ばれた姫宮(ひめみや)が、まだこの屋敷にいらっしゃいます。まもなく神様にお仕えする姫宮のために、男子(だんし)禁制(きんせい)にしております」
と言われてしまったら、いくら源氏の君でもどうしようもないわ。
「あちらもこちらも、どうしてこうとげとげしいのだろう」
とつぶやいていらっしゃった。