野いちご源氏物語 〇九 葵(あおい)

(みかど)東宮(とうぐう)様に帝の(くらい)をお譲りになった。
新しい帝は弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)様のお生みになった皇子(みこ)だから、右大臣(うだいじん)様の孫君(まごぎみ)でいらっしゃる。
右大臣様の時代が始まろうとしていた。

引退なさった帝は「上皇(じょうこう)様」におなりになった。
内裏(だいり)から出て、上皇様のためのお住まいに移られる。
藤壺(ふじつぼ)中宮(ちゅうぐう)様もご一緒にお引っ越しになって、新しいお住まいでふつうのご夫婦のように仲良く暮らしておられるの。
弘徽殿の女御様はそれがお気に召さないから、内裏の新しい帝のおそばにばかりいらっしゃる。
そうするとますます上皇様と中宮様は水入らずでお幸せそうなの。

ただ、新しい東宮になられた中宮様の皇子は、今も内裏にいらっしゃる。
上皇様は東宮様にお会いできないことを寂しがっておられたわ。
東宮様のご親族は皇族の方たちだから、後見(こうけん)はできないきまりなの。
上皇様は源氏の君に東宮様の後見をお願いなさった。
源氏の君は後ろめたい気持ちもなさったけれど、やはりうれしくお思いになっていたわ。