桜の(うたげ)の翌日には小さな宴会が開かれた。
源氏(げんじ)(きみ)はお(こと)をお弾きになったわ。
昨日の桜の宴よりも堅苦しくなくておもしろいのよ。
でも源氏の君は(うわ)(そら)なの。
<こうしている間にも、昨夜の姫君(ひめぎみ)内裏(だいり)からお下がりになってしまうのでは>
と気にして、家来の惟光(これみつ)良清(よしきよ)弘徽殿(こきでん)のあたりを見張らせていらっしゃる。
ふたりがご報告にやって来た。
「たった今、弘徽殿の女御(にょうご)様のお身内(みうち)らしい方々が、乗り物で出ていかれました。乗り物は三台ございました」
と申し上げる。

<ついに何番目の姫君か分からないままになってしまった。父君(ちちぎみ)右大臣(うだいじん)様に正直にご相談したら、正式な婿(むこ)扱いされてしまうだろう。まだどのような性格の姫君か見極められていないのに、後戻りできない状況になるのは困る。かといってもう会えないのは残念すぎる。どうしたらよいだろうか>
とお悩みになった。
その一方で、
若紫(わかむらさき)(きみ)はどうしているだろう。私が何日も内裏にいるから、寂しがっているのではないか>
と、二条(にじょう)(いん)の方もご心配なさる。
あちらもこちらも気になって、お忙しいこと。

源氏の君は交換なさった(おうぎ)をもう一度よくご覧になる。
桜色の紙に朧月(おぼろづき)というよくある絵だけれど、大切に使いこんであって、あの女君が気に入っておられたことが分かるの。
少しすねたようなご様子で、「探し出そうとまでは思ってくださらないのね」とおっしゃったことを思い出される。
「探し出そうにも、こんなにすぐに消えてしまっては」
と扇に書いて、ため息をおつきになった。