年が明けて、源氏(げんじ)(きみ)は二十歳でいらっしゃる。
内裏(だいり)で桜の(うたげ)が開かれた。
藤壺(ふじつぼ)中宮(ちゅうぐう)様と東宮(とうぐう)様が(みかど)の左右にお座りになったわ。
弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)様はまだご立腹だったけれど、こういう宴会がお好きな方だから出ておいでになった。
ご自分のお席が中宮様よりも下座(しもざ)なことを、いまいましく思っていらっしゃるようだったわ。

空は晴れ渡って、鳥の声も心地よい。
皇族や貴族の方たちは、中国の詩を作って帝にご披露なさるの。
ここでもまた、源氏の君と頭中将(とうのちゅうじょう)様は並々ならぬ才能をお見せになった。
帝も東宮様もご学問がお好きだから、貴族の方たちも皆様努力していらっしゃる。
それでも、たくさんの人に注目されながら詩をご披露するのは緊張してしまう、という方も多かった。
上手な詩を作ることと、気後れせずにご披露することは別問題なのよね。
そんななかで年老いた博士(はかせ)たちは堂々としたものだったわ。
格好はみすぼらしいのだけれど、やはり経験の差かしらね。
帝は貴族の方たちのさまざまなご様子を、興味深そうにご覧になっていた。

音楽にあわせて(まい)が舞われる。
夕暮れ時になると、東宮様は上皇(じょうこう)様の祝賀会を思い出された。
源氏の君が青海波(せいがいは)という舞を美しく舞われたのよね。
(かんむり)()すための桜の枝をお与えになって、舞うようにお命じになる。
源氏の君は辞退しきれなくて、ほんの少しだけ舞われたわ。
ゆったりと(そで)をひるがえすご様子が、比べるものもないほどお美しいの。
左大臣(さだいじん)様なんて、冷淡な婿君(むこぎみ)への(うら)めしさも忘れて涙を流されていた。
帝が、
「頭中将、そなたも舞ってみよ」
とお命じになると、頭中将様は源氏の君とは別の舞を見事に舞われたの。
もしかしたらこんなこともあるかもしれない、と練習なさっていたのかしら。
とてもお上手だったから、帝はご褒美の品をお与えになったわ。

夜になると舞はよく見えない。
源氏の君がお作りになった詩を、講師が解説しながら読み上げるの。
帝も見事な出来映えに感心なさっている。
中宮様は、
<弘徽殿の女御は、この源氏の君の何が気に入らないと言うのだろうか>
とお思いになって、しまったとお気づきになる。
<私が源氏の君の肩をもってはいけない。そんなことから、皇子の父親の秘密に気づく人がいるかもしれないのだから>
「まっさらな関係で、あの人を見ることができたなら」
と、ついお口からこぼれでる。
それを聞いた人がいたとかいないとか。
すっかり夜が更けて、桜の宴はお開きになったわ。