野いちご源氏物語 〇七 紅葉賀(もみじのが)

藤壺(ふじつぼ)女御(にょうご)様のご実家で王命婦(おうのみょうぶ)をせっついても、前回のようにご寝室に入れてくれそうにはない。
源氏(げんじ)(きみ)は、明るい時間に堂々と女御様のご機嫌(きげん)(うかが)いに行くことになさった。
王命婦をはじめとした上級 女房(にょうぼう)たちが、かしこまった応対役として出てきた。
<女御様は私と直接お話をしてくださるおつもりはないのだ。よそよそしい客扱いをなさる>
とお顔をしかめてしまわれる。

なんでもないふうを装って無難なお話をなさっていると、兵部卿(ひょうぶきょう)(みや)様がお越しになったの。
宮様は女御様の兄君(あにぎみ)で、若紫(わかむらさき)(きみ)父君(ちちぎみ)でもあられる。
宮様は源氏の君のところへいらっしゃった。
女性の姿にして拝見したいような、なよやかで美しいご容姿なのよ。
源氏の君は、女御様とも若紫の君とも血縁でつながる宮様に親しみを感じて、打ち解けてお話しなさる。
宮様は、行方不明の姫君を源氏の君がお世話なさっていることなどご存じなく、
<美しい人だ。この人が女性だったら口説かずにはいられないであろう>
とご機嫌でお話し相手をしていらっしゃったわ。

日が暮れたころ、宮様は女御様のお部屋にお入りになった。
兄妹(きょうだい)といえどもついたて越しでお話しなさっているはずだけれど、それでも源氏の君はうらやましくなってしまわれる。
元服(げんぷく)する前の子ども時代は、(みかど)のお(とも)をして女御様のおそばに座らせていただけたのに。女御様は私にも直接お話ししてくださって、お顔をちらりと拝見することだってあった。それが今ではこの扱いだ>
とつらく思っていらっしゃった。
でも、このように扱われるのが当然なことも分かっておいでになる。
「もっと頻繁にご機嫌伺いに上がるべきですが、お呼びがございませんので、つい(なま)けております。私でお役に立つことがございましたら、お声をおかけいただきますと幸いに存じます」
と堅苦しいご挨拶だけをして、すぐにお帰りになったわ。

王命婦は源氏の君をお気の毒に思う。
でも、あの夜から女御様は、王命婦を警戒して遠ざけていらっしゃるの。
それも申し訳ないことで、源氏の君に何かしてさしあげることはできない。
だれも何もできないまま、月日だけが経っていったわ。
この程度のはかないご縁であったことを、女御様は、
<かえってよかったのだ>
と思ってお心を落ち着かせようとなさる。
源氏の君は、
<女御様とのご縁が、この程度のはずはない>
と、まだ諦められずに思い悩んでいらっしゃった。