野いちご源氏物語 〇六 末摘花(すえつむはな)

年が明けてしばらくしたころ、源氏の君は常陸(ひたち)(みや)様の姫君(ひめぎみ)をお訪ねになった。
新しい女房(にょうぼう)が何人か増えて、これまでよりもふつうのお屋敷らしくなっていたわ。
なんと姫君も、少し女らしい雰囲気を身につけていらっしゃった。
<このままふつうの女性らしくなってくださったら>
と源氏の君は期待なさる。

おふたりは日が昇りはじめたころにお起きになった。
源氏の君はお着替えをなさってから、お(ぐし)の乱れをお直しになる。
古い鏡台や、お髪を整える道具を女房がお出しした。
亡き常陸の宮様ご愛用の品々で、源氏の君は、
<さすがに洒落(しゃれ)たお道具だ>
とご覧になっていたわ。

姫君は源氏の君の方へ出てきて、見事な黒髪をこぼれさせながらひじ置きにもたれかかっていらっしゃる。
ご様子が女らしくなった気がされたのは、年末に源氏の君がお贈りになったお着物を、そのまま着ていらっしゃるからだった。
「今年はもう少しお声をお聞かせください。年が新しくなったのだから、ご態度も新しくしていただけるとうれしい」
とおっしゃる。
姫君はかろうじて、
「私は古めかしくて」
とだけ、震える声でおっしゃった。
源氏の君は華やかにほほえんで、
「そう、その調子です。新しい年はよい年になりそうだ」
とおっしゃる。

「あなたのお声が聞けるなんて、夢かと思いましたよ」
と上機嫌でお帰りになるのを、姫君はお見送りなさった。
源氏の君がふり返ってご覧になると、やはり姫君の鼻が目立つ。
年が新しくなっても、鼻の頭は赤いままなの。
<あれさえなければ>
と源氏の君はお思いになっていたわ。