野いちご源氏物語 〇六 末摘花(すえつむはな)

常陸(ひたち)(みや)様の姫君(ひめぎみ)のご容姿が、まぁそこそこという程度だったら、源氏(げんじ)(きみ)は捨ててしまわれたかもしれない。
でも、あれほどのご容姿だと知ってしまわれたから、ただひたすらお気の毒で仕方がないの。
それで、恋人というより父か兄のように熱心にお世話をなさる。
さすがに黒い毛皮ではあんまりだからと、絹や綿の布を姫君に贈られた。
年老いた女房(にょうぼう)たちや、門番(もんばん)の年寄りのための着物までお贈りになったわ。

姫君のお屋敷では、源氏の君からの贈り物を素直によろこんでお受け取りになった。
<こんなことまで恋人に心配されるのは恥ずかしい>
とはお思いにならないようなので、源氏の君も気楽にあれこれとお贈りになる。
恋人として打ちとけた関係にはなれなかったけれど、姫君の後見(こうけん)として親密な関係になっていかれたのだから、男女の仲とは不思議なものよね。

源氏の君にだって、容姿のすぐれない恋人がいなかったわけではないの。
空蝉(うつせみ)(きみ)継娘(ままむすめ)囲碁(いご)をしているのを(のぞ)()したとき、容姿は今ひとつだったけれど、ふるまいが上品でそれほど悪くは見えなかった。あの人は中流貴族の後妻(ごさい)で、宮様の姫君よりもずっと身分が低かったというのに。身分は関係なく、個人の性質の問題なのだろう。その点でも、やはり空蝉の君はよい女性だった。やさしいが芯の強い人で、ついに私は勝てなかった>
と、なつかしく思い出していらっしゃる。