野いちご源氏物語 〇四 夕顔(ゆうがお)

十月になって、いよいよ空蝉(うつせみ)(きみ)が夫と地方へ行く日が近づいた。
一緒についていく女房たちのためにと、源氏(げんじ)(きみ)はたくさんの餞別(せんべつ)——旅する人への贈り物を届けさせたわ。
それとは別に、こっそりと空蝉の君にも贈り物を差し上げる。
細工(さいく)の美しい(くし)(おうぎ)をたくさんと、それからあの夜持って帰ってしまわれた女君の着物も。

贈り物に女君(おんなぎみ)へのお手紙をお添えになる。
「またお会いできるときまでと思って()(がら)を大切にしておりましたが、お会いできないまま長い時間が経ってしまいました」
女君は小君(こぎみ)にお返事を届けさせなさった。
「お返しいただいた夏用の着物は、もう着られる季節ではございませんね。あのころを懐かしく思って涙がこぼれることもございます」
源氏の君は、
「信じられないほど心の強い人だった。ついに私になびくことなく離れていってしまわれる」
と残念に思っていらっしゃった。

いかにも冬のはじまりにふさわしい、冷たい雨が降っている。
「秋と一緒に恋がふたつ終わったのだ。一人は死んでしまい、一人は遠くへ離れていってしまった。どちらも世間(せけん)の目が気になる秘密の恋で、ずいぶんと苦しんだものだ」
と静かにふり返っておられたわ。