源氏の君のご病気が回復に向かっていたころのこと。
空蝉の君は、いよいよ夫と一緒に地方へ行く日が近づいていた。
「源氏の君は私をすっかり捨ててしまわれたのだろう。これでよいはずだけれど、寂しい気もする」
と思い悩んでいらっしゃるときに、源氏の君がご病気だとお聞きになった。
「どうせすぐ遠くへ行くのだから」と、ご自分に言い訳をなさってお手紙をお送りになる。
「私のことなどお忘れですか。『なぜ見舞いの手紙をくれないのだ』と聞いてくださいませんね。ご病気とうかがってご心配申し上げておりますが、『心配している』と口に出せなくて苦しんでいるのでございます。生きるのもつらいと思われるほどに」
源氏の君はめずらしい空蝉の君からのお手紙をよろこんで、すぐにお返事をお書きになった。
「私こそ、あなたのご冷淡さに生きるのがつらいと何度も思いましたよ。でも蝉の抜け殻をいただいたころと比べたら、大きな進歩ですね。こんなお手紙をいただいては、もうしばらく生きたいと思ってしまうではありませんか」
ご筆跡は少し乱れているけれど、そこから源氏の君の息遣いが聞こえてきそうでお美しいの。
女君は、
「私の着物をお持ち帰りになったことを忘れていらっしゃらないのだ。今思うと、あきれるほどまっすぐで、こんなふうに申しては失礼だけれどおかわいらしい方だった。私が都を離れれば忘れてしまわれるだろうか。お若いころの思い出のひとつにしていただこうというのは恐れ多いだろうか」
と、しんみりとほほえんでいらっしゃった。
空蝉の君は、いよいよ夫と一緒に地方へ行く日が近づいていた。
「源氏の君は私をすっかり捨ててしまわれたのだろう。これでよいはずだけれど、寂しい気もする」
と思い悩んでいらっしゃるときに、源氏の君がご病気だとお聞きになった。
「どうせすぐ遠くへ行くのだから」と、ご自分に言い訳をなさってお手紙をお送りになる。
「私のことなどお忘れですか。『なぜ見舞いの手紙をくれないのだ』と聞いてくださいませんね。ご病気とうかがってご心配申し上げておりますが、『心配している』と口に出せなくて苦しんでいるのでございます。生きるのもつらいと思われるほどに」
源氏の君はめずらしい空蝉の君からのお手紙をよろこんで、すぐにお返事をお書きになった。
「私こそ、あなたのご冷淡さに生きるのがつらいと何度も思いましたよ。でも蝉の抜け殻をいただいたころと比べたら、大きな進歩ですね。こんなお手紙をいただいては、もうしばらく生きたいと思ってしまうではありませんか」
ご筆跡は少し乱れているけれど、そこから源氏の君の息遣いが聞こえてきそうでお美しいの。
女君は、
「私の着物をお持ち帰りになったことを忘れていらっしゃらないのだ。今思うと、あきれるほどまっすぐで、こんなふうに申しては失礼だけれどおかわいらしい方だった。私が都を離れれば忘れてしまわれるだろうか。お若いころの思い出のひとつにしていただこうというのは恐れ多いだろうか」
と、しんみりとほほえんでいらっしゃった。



