野いちご源氏物語 〇四 夕顔(ゆうがお)

源氏(げんじ)(きみ)はそのまま寝込んで、たった二、三日で衰弱(すいじゃく)してしまわれた。
それをお聞きになった(みかど)はひどくご心配なさった。
いろいろなお寺や神社がご回復のお祈りをしたわ。
不吉(ふきつ)なほどお美しい方だから、早死(はやじ)になさるのでは」
(みやこ)じゅうが大騒ぎしているの。

病床(びょうしょう)で源氏の君は右近(うこん)のことを思い出された。
山寺(やまでら)から二条(にじょう)(いん)に呼んで、近くでお仕えさせなさる。
惟光(これみつ)は源氏の君のご病気を心配しながら、右近にも気を配ってあげたわ。
急に二条の院で働くことになっても、知り合いも頼れる人もいなくて、心細い立場だものね。
源氏の君は少しご気分がよいときは右近を近くにお呼びになったから、自然と他の女房(にょうぼう)たちとも打ちとけていったみたい。
右近は女主人をなくしたので黒い喪服(もふく)を着ている。
美人というほどではないけれど、感じのよい若い女房よ。

源氏の君は右近に、弱々しくお話しになる。
「短い恋だった。私ももう長くないだろう。そなたから女主人を(うば)ってしまった(つみ)(ほろ)ぼしに、もう少し生きてそなたの世話をしてやりたかったが。私はまもなくあの人のところに行くよ」
右近は源氏の君のお美しさもお優しさも分かっていたから、この方まで亡くなってしまうのはあまりに悲しいと思っていた。

いろいろな方が源氏の君をご心配なさっていた。
左大臣(さだいじん)様は毎日二条の院にお越しになるし、(みかど)からのお使者(ししゃ)()()なくいらっしゃるの。
源氏の君は、(おそ)(おお)くも帝が悲しんで心配してくださっていると聞いて、気を強くもとうとなさる。

いろいろなお祈りや看病の甲斐(かい)があったのか、源氏の君は起き上がれるほどに回復なさった。
ご心配くださった帝にごあいさつなさろうと、まず内裏(だいり)に向かわれる。
周りからあれこれと世話を焼かれ、源氏の君はまだぼんやりしていらっしゃるの。
自分が自分ではないようで、知らない世界に生まれ変わったような不思議なご気分だった。