源氏の君を小さいころからお育てしてきた乳母が、重い病気になってしまったの。
源氏の君はお見舞いに行かれたわ。
乳母の家の周りは小さな家がごちゃごちゃと建っていて、いわゆる庶民の住むところね。
門の鍵を開けるのを待つ間、源氏の君は乗り物のなかからめずらしそうに通りを覗いていらっしゃった。
すると、乳母の家のとなりに風流な家があったの。
女性が何人もいるのがうっすら見えて、どういう人たちが集まっているのだろうと気になさった。
乗り物はいつものご立派なものではなくて、もっと身分の低い貴族が使うものに乗っていらっしゃった。
まさかご自分が乗っているとは思わないだろうと油断なさって、少しだけお顔をお出しになったわ。
よく見るとなんとも貧しそうな家なの。
「まぁ、どこに住んだとしても所詮、死ぬまでの仮の住まいだものな」
と冷めたことをお思いになる。
源氏の君はときどきそういう一面をお見せになるわね。
その家の塀に白い花が咲いていた。
「あの花は何だ」
とおっしゃると、源氏の君の家来が、
「夕顔でございます。このような貧しい家に咲く花でございます」
とお答えする。
源氏の君はこれもめずらしくお思いになって、
「ひとつ折ってまいれ」
とお命じなる。
家来が折ろうとすると、黄色い袴をつけた小さな女の子が家から出てきたの。
この家に仕えている子で、白い扇を差し出しながら、
「乗り物のなかの方に頼まれたのでしょう? これに載せて差し上げてください。やわらかくて持ちにくい花ですから」
と言ったわ。
やっと門が開いた。
鍵を手にして乳母の息子の惟光が出てきた。
この人も、母親と一緒に源氏の君に長年お仕えしているのよ。
「鍵がなかなか見つかりませんで、このようなところにお待たせして申し訳ありません」
と謝っていた。
源氏の君はお見舞いに行かれたわ。
乳母の家の周りは小さな家がごちゃごちゃと建っていて、いわゆる庶民の住むところね。
門の鍵を開けるのを待つ間、源氏の君は乗り物のなかからめずらしそうに通りを覗いていらっしゃった。
すると、乳母の家のとなりに風流な家があったの。
女性が何人もいるのがうっすら見えて、どういう人たちが集まっているのだろうと気になさった。
乗り物はいつものご立派なものではなくて、もっと身分の低い貴族が使うものに乗っていらっしゃった。
まさかご自分が乗っているとは思わないだろうと油断なさって、少しだけお顔をお出しになったわ。
よく見るとなんとも貧しそうな家なの。
「まぁ、どこに住んだとしても所詮、死ぬまでの仮の住まいだものな」
と冷めたことをお思いになる。
源氏の君はときどきそういう一面をお見せになるわね。
その家の塀に白い花が咲いていた。
「あの花は何だ」
とおっしゃると、源氏の君の家来が、
「夕顔でございます。このような貧しい家に咲く花でございます」
とお答えする。
源氏の君はこれもめずらしくお思いになって、
「ひとつ折ってまいれ」
とお命じなる。
家来が折ろうとすると、黄色い袴をつけた小さな女の子が家から出てきたの。
この家に仕えている子で、白い扇を差し出しながら、
「乗り物のなかの方に頼まれたのでしょう? これに載せて差し上げてください。やわらかくて持ちにくい花ですから」
と言ったわ。
やっと門が開いた。
鍵を手にして乳母の息子の惟光が出てきた。
この人も、母親と一緒に源氏の君に長年お仕えしているのよ。
「鍵がなかなか見つかりませんで、このようなところにお待たせして申し訳ありません」
と謝っていた。



