寝室をお出になると、小君(こぎみ)はすぐ近くで寝ていた。
うまくいくだろうかと気になって深く眠ってはいなかったから、源氏(げんじ)(きみ)が起こすとすぐに目を覚ましたわ。
お帰りになるのだと思って戸を開けてさしあげる。

そこへ、年をとった女房(にょうぼう)が遠くから声をかけたの。
「誰じゃ」
小君は面倒(めんどう)な女房に出くわしてしまったと思って、
「僕だ」
とだけ答える。
若君(わかぎみ)様が夜中に何をしておいでじゃ」
と気にして、()いた女房は小君の方へ歩み寄ってきた。
小君は、
「この戸から(わた)廊下(ろうか)に出ようとしているだけ」
と答えて、先に源氏の君を戸から押し出した。

すると、戸から月明かりが差しこんで、源氏の君の姿が逆光(ぎゃっこう)で浮かび上がってしまったの。
おせっかいな老女房(ろうにょうぼう)は、
「一緒におられるのはどなたじゃ。あぁ、その背の高さは民部(みんぶ)さんか」
と勝手に勘違(かんちが)いをした。
「民部」と呼ばれる背の高い女房が屋敷にいるのね。
「若君も今にそのくらい大きくおなりじゃ」
と言って、「よっこらしょ」と同じ戸から出ようとする。

小君は、老女房を部屋のなかに押し戻すこともできなくて、三人で渡り廊下に立つことになってしまった。
源氏の君は柱の(かげ)に隠れようとなさるけれど、老女房はよたよたと近づいてくる。
とっさに(そで)でお顔をお隠しになった。
「民部さんは今夜奥さまのおそばにいたのかえ? 私はお(なか)の具合が悪くてお休みをいただいていたのに、人手(ひとで)が足りないと呼ばれたのじゃ。やはりまだ痛む。困った困った」
と言うだけ言って、返事も待たずに行ってしまった。

源氏の君はお顔が真っ青。
こんな軽率(けいそつ)な夜遊びをするものではないと、やっとお()りになったわ。
さすがにこんな目に()われてはね。