源氏の君は女君をいまいましく思いながらも、
<これで終わりにはできない>
とお心にかかりつづけている。ご自分が拒絶されるなんて許せない。小君を呼んでおっしゃった。
「おまえの姉君はあまりに冷たい人だから、いっそ忘れてしまおうと思ったが、どうしても忘れられない。お会いできるよう計画しておくれ」
この間のことで懲りた小君はためらったけれど、源氏の君が頼ってくださったことがうれしい。
<どんなときを狙ったらうまくいくだろう>
幼心に機会を待っていると、紀伊の守が地方に赴任した。
男の家来たちは紀伊の守がお供として連れていった。屋敷は女たちばかりで、警戒心も薄い。
小君は自分の乗り物に源氏の君をお乗せすると、夕闇にまぎれて紀伊の守の屋敷へ向かった。
<年齢よりはしっかりしているが、まだ幼い子どもだ。大丈夫だろうか>
源氏の君は心配なさったけれど、この機会を逃すわけにはいかない。目立たない格好で、「むこうの屋敷の門に鍵がかけられないうちに」と急いで行かれる。
一番人目につかない門から乗り物のまま入って、源氏の君は屋敷の濡れ縁までたどり着かれた。警備の男たちが少し残っていたけれど、幼い小君の乗り物にわざわざ近づいて挨拶などしない。
小君は源氏の君を部屋から見えないところにお待たせする。それからわざと元気よく女房に話しかけながら入っていった。
「こんなに暑いのに、どうして戸を閉めきっているの」
「紀伊の守の妹君が、お昼からこちらにお越しなのです。外からご様子が見えてはいけませんから。奥様と囲碁をして遊んでいらっしゃいますよ」
紀伊の守の妹は継母である女君に懐いていて、離れから渡り廊下を通って気軽に遊びに来る。
源氏の君は、小君が入っていった戸にこっそりと近づき、縁側に忍びこまれた。
<囲碁をしているなら、ふたりが向かいあっているところを見られるかもしれない>
覗いてごらんになると、暑さのせいかついたては片付けてあって、奥までよく見通せてしまう。
部屋の真ん中あたりに女君はいらっしゃった。
濃い紫色の着物の、小柄な後ろ姿が見える。なんとなく地味な感じがする。
向かいあった継娘からも顔を見られないようにしているのが奥ゆかしい。やせた手を恥じて、しょちゅう袖で隠そうとする。
継娘は源氏の君からよく見えた。
白い下着に赤紫色の着物をだらしなく羽織って、胸元がはだけている。いくら暑いとはいえ品がない。
でも、色白でぽっちゃりとして魅力的。華やかな顔立ちに愛嬌があって、髪も豊かだった。
<父親がたいそうかわいがっているというのももっともだ>
かわいらしい人だと認めつつも、
<もう少し落ち着いた雰囲気がほしいが>
とお感じになる。
囲碁は女君が勝った。
継娘は悔しがりながらも楽しそうに笑っている。やはり少し品が足りない。
源氏の君は女君をじっとご覧になった。
ななめむこう向きな上、口元を隠しているからはっきりとしないけれど、わずかに横顔が見える。あまり美人ではない。しかし奥ゆかしい品の良さにかけては、継娘とは比べ物にならなかった。
浮気な源氏の君だから、もちろん継娘にも興味はお持ちになったけれど。
源氏の君はこれまで、女性のくつろいだ姿をご覧になったことがなかった。奥様や恋人たちは、源氏の君の前ではとり澄ましていらっしゃる。
こんなふうに垣間見なさったこともないから、どきどきして目が離せない。
<何もかも丸見えではないか。見られていることに気づいていないのは気の毒だが、このままずっと見ていたい>
夢中でご覧になっているうちに、小君が部屋から出てくる気配がした。急いで元の場所にお戻りになる。
<これで終わりにはできない>
とお心にかかりつづけている。ご自分が拒絶されるなんて許せない。小君を呼んでおっしゃった。
「おまえの姉君はあまりに冷たい人だから、いっそ忘れてしまおうと思ったが、どうしても忘れられない。お会いできるよう計画しておくれ」
この間のことで懲りた小君はためらったけれど、源氏の君が頼ってくださったことがうれしい。
<どんなときを狙ったらうまくいくだろう>
幼心に機会を待っていると、紀伊の守が地方に赴任した。
男の家来たちは紀伊の守がお供として連れていった。屋敷は女たちばかりで、警戒心も薄い。
小君は自分の乗り物に源氏の君をお乗せすると、夕闇にまぎれて紀伊の守の屋敷へ向かった。
<年齢よりはしっかりしているが、まだ幼い子どもだ。大丈夫だろうか>
源氏の君は心配なさったけれど、この機会を逃すわけにはいかない。目立たない格好で、「むこうの屋敷の門に鍵がかけられないうちに」と急いで行かれる。
一番人目につかない門から乗り物のまま入って、源氏の君は屋敷の濡れ縁までたどり着かれた。警備の男たちが少し残っていたけれど、幼い小君の乗り物にわざわざ近づいて挨拶などしない。
小君は源氏の君を部屋から見えないところにお待たせする。それからわざと元気よく女房に話しかけながら入っていった。
「こんなに暑いのに、どうして戸を閉めきっているの」
「紀伊の守の妹君が、お昼からこちらにお越しなのです。外からご様子が見えてはいけませんから。奥様と囲碁をして遊んでいらっしゃいますよ」
紀伊の守の妹は継母である女君に懐いていて、離れから渡り廊下を通って気軽に遊びに来る。
源氏の君は、小君が入っていった戸にこっそりと近づき、縁側に忍びこまれた。
<囲碁をしているなら、ふたりが向かいあっているところを見られるかもしれない>
覗いてごらんになると、暑さのせいかついたては片付けてあって、奥までよく見通せてしまう。
部屋の真ん中あたりに女君はいらっしゃった。
濃い紫色の着物の、小柄な後ろ姿が見える。なんとなく地味な感じがする。
向かいあった継娘からも顔を見られないようにしているのが奥ゆかしい。やせた手を恥じて、しょちゅう袖で隠そうとする。
継娘は源氏の君からよく見えた。
白い下着に赤紫色の着物をだらしなく羽織って、胸元がはだけている。いくら暑いとはいえ品がない。
でも、色白でぽっちゃりとして魅力的。華やかな顔立ちに愛嬌があって、髪も豊かだった。
<父親がたいそうかわいがっているというのももっともだ>
かわいらしい人だと認めつつも、
<もう少し落ち着いた雰囲気がほしいが>
とお感じになる。
囲碁は女君が勝った。
継娘は悔しがりながらも楽しそうに笑っている。やはり少し品が足りない。
源氏の君は女君をじっとご覧になった。
ななめむこう向きな上、口元を隠しているからはっきりとしないけれど、わずかに横顔が見える。あまり美人ではない。しかし奥ゆかしい品の良さにかけては、継娘とは比べ物にならなかった。
浮気な源氏の君だから、もちろん継娘にも興味はお持ちになったけれど。
源氏の君はこれまで、女性のくつろいだ姿をご覧になったことがなかった。奥様や恋人たちは、源氏の君の前ではとり澄ましていらっしゃる。
こんなふうに垣間見なさったこともないから、どきどきして目が離せない。
<何もかも丸見えではないか。見られていることに気づいていないのは気の毒だが、このままずっと見ていたい>
夢中でご覧になっているうちに、小君が部屋から出てくる気配がした。急いで元の場所にお戻りになる。



