野いちご源氏物語 〇二 帚木(ははきぎ)

ひさしぶりに雨がやんだ日、源氏(げんじ)(きみ)左大臣(さだいじん)(てい)へ行かれた。
もうずっと内裏(だいり)に泊まりこんでいらっしゃったから、待ちかねておられる左大臣(さだいじん)様をお気の毒に思われたのね。
左大臣様のお屋敷(やしき)は、すっきりと美しく整えられている。
姫君(ひめぎみ)も美しくて気高くて、とてもご立派な雰囲気よ。
源氏の君は、
「あぁ、これが頼りになる妻というものなのだろうな」
とご覧になる。
でもね、あまりにきちんとなさりすぎていて、近づきがたい感じもするのよね。
源氏の君はそんな姫君を気づまりにお思いになって、若くて美しい女房(にょうぼう)たちをお相手に冗談(じょうだん)などをおっしゃっている。
梅雨時(つゆどき)のじめじめした暑い日だったから、お着物もきっちりとはお召しになっていない。
そのご様子を物陰(ものかげ)から拝見している女房たちは、
「こういうくつろいだお姿もすてきね」
なんて言っていたわ。

左大臣様がごあいさつにいらっしゃった。
源氏の君がくつろいだお姿なのに遠慮して、ついたて()しにお話しになる。
左大臣様のお話が長いので、源氏の君はお顔をしかめて、
「暑いのに」
とぼそりとおっしゃったの。
それが聞こえた女房たちがくすくす笑うと、
「静かにせよ」
と優しくおっしゃって、ゆったりと(ひじ)置きに寄りかかっていらっしゃる。
のんびりと気楽になさっているご様子が、源氏になられたとはいえ皇子(みこ)様らしいご貫禄(かんろく)だったわ。