野いちご源氏物語 〇一 桐壺(きりつぼ)

左大臣(さだいじん)様は(みかど)から深く信頼されていらっしゃる上に、(きた)(かた)——ご正妻(せいさい)は帝の妹君(いもうとぎみ)でいらっしゃる。
さらにそこへ源氏(げんじ)(きみ)婿君(むこぎみ)として迎えられたものだから、右大臣(うだいじん)は完全に負けてしまわれた。

右大臣(うだいじん)様は弘徽殿(こきでん)女御(にょうご)様の父君(ちちぎみ)で、東宮(とうぐう)様の祖父君(そふぎみ)よ。
東宮様が帝におなりになれば政治上の権力を独り占めできるはずなのだけれど、今は左大臣様のお顔色をうかがうしかない。

左大臣様には、源氏の君とご結婚された姫君(ひめぎみ)の他に、ご子息(しそく)がいらっしゃるの。
若くてお美しい方よ。
右大臣様は左大臣様と仲がお悪いのだけれど、このご子息がどこか別の家の婿(むこ)になってしまうのも()しいと思われた。
それで、ご自分の姫君、つまり弘徽殿の女御様の妹君(いもうとぎみ)とご結婚させなさったのよ。
左大臣様が婿君の源氏の君を大切にお世話なさるのと同じくらい、右大臣様も婿君を大切になさったわ。
理想的な婿君と義理の父君のご関係よね。