神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

“陽ノ元”まで追いかけてきた過去への決別を告げ、瞳子は衣の(たもと)をひるがえし、部屋をあとにした。

白狼からの返事は、なかった。



本来なら、白狼の屋敷を訪れた時と同じように、双真の『力』で瞳子たちの屋敷(いえ)に戻ることも可能だった。
イチが、双真という赤い“神獣”が為す屋敷を覆う“結界”への【過ぎた介入】を、中和する仕様へと変えてくれていたのだから。

「私のこと……やっぱり、薄情な女だと思ってるでしょ」
「いや。瞳子らしいなと思ってた」

歩いて帰ってもいい? と、双真に申し出たのは、なんとなく収まりのつかない気持ちを吐き出したかったからだ。

(甘えよね、こんなの)

双真に優しくされたいだけの、ただのわがままだ。

……相手からの好意が受け止められないと分かっていて、それでもその相手と向き合うことは、想像以上に精神を疲弊した。

松林を抜けた辺りから潮騒(しおさい)は遠のき、小鳥のさえずりへと変わっていた。枯れ葉を踏みしめ、足場の悪い小道へと双真と連れ立って行く。

「私らしいって、なによ。アンタのなかで私、どんだけ酷い女なのよ?
あ、そういえば最初、なんかアンタってドMっぽいって思ったけど、そういうシュミが」

ふいに、双真の指が伸ばされて、瞳子の目じりに、触れる。