双真は、閉じていた目を開ける。
案じていたよりも難なく、自らの屋敷に戻っていた───正確には、自室だ。
真新しい畳の匂いに混じり、わずかに薫る以前に焚いた菊花の香。
『どうやら、無事に帰って来れたようだな、瞳子』
ホッと息をつきかけた双真は、一瞬前に消え去ったぬくもりに、愕然とする。
『……瞳子?』
つい先程まで───いや、もっと正しく言い換えれば、この部屋にたどり着いた瞬間まで首にあった、瞳子の両腕の感触。
『瞳───』「セキ様、いつお戻りにっ……」
すぱん、と、なんの断りもなく開いた障子戸。血相を変えて宙をすべったイチの眼が、ふと気づいたようにこちらを見下ろした。
「……コタ?」
『オレだ! お前、瞳子を見てないか?』
「は? 瞳子サマは貴方と一緒にいるはずじゃ……」
『瞳子が、いなくなった!』
「いなくなった、って……」
『瞳子が、いない! さっきまでオレと一緒にいて……オレに向かって微笑んでくれてたのに……なのに』
一度、強く頭を振って、双真は室内を見回したのち、イチがひらいたそこを抜け、縁側へと出る。
薄曇りの空は重く垂れ込み始め、湿った風が吹いていた。
───なぜこうなったのか、まったく見当もつかない。
ただ、解っているのは、いまここに、瞳子がいないこと。それだけだ。
案じていたよりも難なく、自らの屋敷に戻っていた───正確には、自室だ。
真新しい畳の匂いに混じり、わずかに薫る以前に焚いた菊花の香。
『どうやら、無事に帰って来れたようだな、瞳子』
ホッと息をつきかけた双真は、一瞬前に消え去ったぬくもりに、愕然とする。
『……瞳子?』
つい先程まで───いや、もっと正しく言い換えれば、この部屋にたどり着いた瞬間まで首にあった、瞳子の両腕の感触。
『瞳───』「セキ様、いつお戻りにっ……」
すぱん、と、なんの断りもなく開いた障子戸。血相を変えて宙をすべったイチの眼が、ふと気づいたようにこちらを見下ろした。
「……コタ?」
『オレだ! お前、瞳子を見てないか?』
「は? 瞳子サマは貴方と一緒にいるはずじゃ……」
『瞳子が、いなくなった!』
「いなくなった、って……」
『瞳子が、いない! さっきまでオレと一緒にいて……オレに向かって微笑んでくれてたのに……なのに』
一度、強く頭を振って、双真は室内を見回したのち、イチがひらいたそこを抜け、縁側へと出る。
薄曇りの空は重く垂れ込み始め、湿った風が吹いていた。
───なぜこうなったのか、まったく見当もつかない。
ただ、解っているのは、いまここに、瞳子がいないこと。それだけだ。



